M&A・買収で株価は上がる?上昇・下落要因を事例から解説!

M&Aを実施する際、気になる要素のひとつには株価への影響があるでしょう。株価の上昇・下落による影響は、長期的な目で見ると企業にとって死活問題になります。そこで今回は、M&A実施で株価が上昇と下落した事例を交えて、M&Aによる株価への影響と要因を解説します。


目次

  1. M&A・買収が行われる理由
  2. 株価に影響を与えるM&A・買収手法
  3. M&A・買収で株価が上昇した事例と要因
  4. M&A・買収で株価が下落した事例と要因
  5. M&A・買収で株価が上昇するメリット
  6. M&A・買収で株価が下落するリスク
  7. 株価の算出方法
  8. M&A・買収で株価は上がる?下がる?のまとめ

1. M&A・買収が行われる理由

M&A・買収の理由

まず、「なぜM&A・買収が行われるのか?」という疑問について解説していきましょう。

M&Aにおける買収とは?合併とどう違う?

M&Aとは、広義では資本・業務提携などの「資本の移動」を指しますが、狭義では「経営権の移動」を指します。M&Aでは、主に後者の意味合いで扱われます。

経営権の移動には「買収」と「合併」があります。買収には、次のような種類があります。

  • 事業買収:事業譲渡、会社分割など
  • 株式買収:株式譲渡、株式移転など

例えば、株式譲渡では株式の取得率によって、売却企業側に対する支配範囲が変わってきます

議決権のある株式を50%以上取得すると、買収企業側は売却企業側の普通決議が必要な議案を可決できるなど、経営権を得ることになります。

さらに、2/3以上の株式を得ると、特別決議が必要な議案を可決できるなど、支配権を手に入れることになります。

最終的に100%の株式を得れば、売却側企業は完全子会社になります。

株式譲渡では、売却企業側への支配権が変わるのみで、完全子会社化したとしても、売却企業側が完全に消滅する、ということにはなりません。

事業譲渡の場合では、買収企業側は譲渡されたい資産と負債とを選べるので、売却企業側を全て引き継ぐ必要はありません。また、事業譲渡でも売却企業側が消滅することはありません

対して、合併は二つ以上の企業を一つにするM&Aです。買収のように、「部分的に事業や株式を移行させる」ことはできません。一般的に、売却企業側が消滅し買収企業側に全て引き継がれます。

M&A・買収が行われる目的とは?

M&A・買収がおこなわれる理由は、「より、事業(企業)を発展させること」です。さらに売却企業側と買収企業側で、M&A・買収の目的を区分すると以下のようになります。

  • 売却企業側:事業承継(後継者対策)、事業(企業)の再生、事業の集中化
  • 買収企業側:事業の規模拡大、新規事業の獲得、人材・技術の獲得

M&Aは、M&A・買収を完了させること自体が目的ではありません。詰めの甘いM&A・買収をすると、M&A後になって相手企業の潜在リスクが判明した、ということも多々あります。本末転倒ならぬよう、M&A・買収することが重要です。

後ほど解説していきますが、株式を公開していない中小企業でのM&Aでは、同意を得て行う友好的買収が多いですが、上場企業では、経営陣の同意を得ずに行う敵対的買収などもあります。

投資家にとって、不安定さを感じさせるM&A・買収を行えば、株価の下落につながります。、売却企業への事前の身辺調査は重要だといえます。

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2. 株価に影響を与えるM&A・買収手法

株価に影響のあるM&A・買収方法

M&A・買収は手法によって、株価に影響を与えるものがあります。この章では、それらの要素について解説していきます。

①株式公開買い付け(TOB)

企業の株式を買いたいと思ったとき、考えられる方法は二つあります。一つは「証券取引所で買う」、もう一つは「株式公開買い付け(TOB)で買う」です。

株式公開買い付け(TOB)とは、第三者の投資家が公開取引市場外で株式の買い付けを申し込むことで、M&A・買収の対象企業の株式を集めることです。

株式公開買い付け(TOB)では、第三者の投資家が「買い付け期間」「買取り株数」「価格」を事前に公表し、直接株式の買い付けをします。目的は、買収対象企業の経営権と、特別決議の拒否権の取得です。

株式公開買い付け(TOB)のメリットは、一定の価格で株式を短期間で大量に取得できるため、株価の上昇リスクを抑えられるのに加え、予定通りに株式が集まらなくとも、キャンセルできる点です。

一方、デメリットは、「公開していること」で、株式を買収していることが明らかになることです。買収対象の企業の経営陣と第三者(投資家)との間で、戦いがはじまります。

株式公開買い付け(TOB)による株価の変動は、その背景を知ることです。背景による株価の変化をまとめると以下のようになります。
 

背景①株式公開買い付け(TOB)の株価と、現在の株価の比較
例) 現在の株価500円として、株式公開買い付け(TOB)の株価を600円とすると、投資家から買い付けが集まりやすくなり、特別感が出て株価が上昇する。

しかし、一般株主からの株式取得が目的ではなく、特定の第三者との株式のやり取りが目的の場合、現在の株価と比較して、株式公開買い付け(TOB)での株価は、下落することもある。
背景②株式の買取り数
例) 株式公開買い付け(TOB)では、買取りする株式の数に限りがある。つまり、応募しても必ず買い取ってもらえるわけではない。そのため、そのリスクが反映されて株価が下落することもある。
背景③株式公開買い付け(TOB)の種類
例) 敵対的TOBの場合、買収対象企業側の対応に期待が集まり、株式公開買い付け(TOB)時の株価よりも、株価が上昇することがある。

ちなみに、株式公開買い付け(TOB)で有名なのが、ライブドアがフジテレビに仕掛けた買収劇です。結果的に買収防衛策によってフジテレビの買収は免れましたが、この出来事をきっかけに、様々な会社で買収防衛策が講じられるようになりました。

株式公開買い付け(TOB)には、「対象企業の経営陣から了承を得ているのか?」の視点から、二種類のTOBに分けられます。

友好TOB

有効TOBは買収対象企業から、M&A・買収の合意を得ているTOBです。中小企業では、こちらの友好的TOBが多く使われます。事前に買収に合意を得ているため、成立しやすくなります。

買収対象企業にしてみれば、信頼できる相手に株式を渡すことになるので、後の経営も安定します。株式公開買い付け(TOB)での株価は、市場の価格と同じくらいになります。

敵対的TOB

敵対的TOBとは、株主総会で株式の買収に同意を得ずにTOBを行うことです。敵対的買収をするときは、敵対的TOBが使われることが多いです。

敵対的TOBを防ぐには、株主に株式を保有し続けてもらうこと、買い付け者の持ち株比率を下げるために、新株予約券を事前に準備しておく、などがあります。

また、敵対的TOBでは、買収者に対する社会的評価が下がる、従業員のモチベーションやモラルが下がる、などのデメリットが大きくなります。

②譲渡・移転

前章でも少し触れましたが、株式買収の種類には、株式譲渡と株式移転があります。

株式譲渡とは、M&Aで多く使われる方法で、株式譲渡をすることで株主が代わり、会社の経営権を引き渡す方法です。

株式移転とは、すでに発行済みである全ての株式を、新設する会社に移転させる方法です。株式移転を行うことにより、完全な親会社を設立することになります。

これらの方法で、「企業価値が上がるだろう」と判断された場合は、株式が移動する前よりも株価が上昇する可能性があります。もちろん、この判断基準はM&Aによってもたらされる効果である、「シナジー効果」を検証する必要もあります。

実際のところ、シナジー効果はM&Aをしてみないと分からない部分が多くあるので、期待しすぎないことも大事です。

③分割・吸収

会社分割とは、会社の全ての事業、もしくは一部を複数の法人格に分割し、移転することです。事業譲渡が事業を資産として譲渡するのに対し、会社分割は事業の切り離しとなります。不採算事業を切り離す際に使われる方法です。

会社分割には、100%の出資で新たに会社を設立する「新設分割」分割後に既にある会社が継承する「吸収分割」があります。

新設分割の場合、出資した会社側の利益や損害について、連結純資産(財務会計上の純資産から、非支配株主持分を除いた分のこと)は、影響を受けることはありません。一方、出資された会社側は、株式を売却できるため、株価にいい影響を与える可能性があります。

対する吸収分割では、分割を行う側の会社は不採算部門を売り、既にある継承先の会社の株式を手に入れられるため、株価は上昇しやすくなります。既にある継承先の会社も、今後の効果を期待して事業を譲り受けるため、影響を受けた結果、株価の上昇が考えられます。

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3. M&A・買収で株価が上昇した事例と要因

M&A・買収で株価が上昇した事例と要因

ここからは実際の企業で行われたM&A・買収で起こった例を取り上げていきましょう。まずはM&A・買収で、株価が上昇した事例と、その要因について解説していきます。

①ダイキン工業によるグッドマン社のM&A・買収

まず、空調機メーカーのダイキン工業が、アメリカに本社のある米エアコンメーカー、グッドマン・グローバル社を買収した事例について解説します。

M&A・買収の背景

2012年8月29日、ダイキン工業は、グッドマン社のM&A・買収を発表し、2012年11月1日(2012年度第3四半期中)にM&A・買収の手続きを完了させています。

このM&A・買収は、2010年12月にニュースで報じられており、当初の買収規模は3,000億円を超すだろうと報じられていましたが、実際の買収額は37億ドル(約2,960億円)となりました。グッドマン社との約240億円のシナジー効果を見込まれてのM&A・買収です。

株価が上昇した要因

M&A・買収が報じられた、2010年12月から2012年まで、節目ごとにダイキンの株価と日経平均株価の推移を見ると、次のようになっています。

 

  株価終値 日経平均
2010年12月27日 2,880 10,355.99
2012年8月30日 2,112 8,983.78
2012年11月1日 2,223 8,946.87
2012年12月 2,942 10,395.18
2013年12月 6,550 16,291.31
2014年12月 7,810 17,450.77
2015年12月 8,901 19,033.71
2016年12月 10,735 19,114.37
2017年12月 13,335 22,764.94
2018年12月 11,695 20,014.77
(1株あたり・円)

グッドマン社買収後における、ダイキンの2013年3月期以降の売上高と経常利益です。

  13年3月期 14年3月期 15年3月期 16年3月期 17年3月期 18年3月期
売上高 12,909 17,876 19,150 20,436 20,439 22,905
経常利益 941 1,555 1,942 2,095 2,310 2,550
(単位:億円)

ダイキンは、グッドマン社の買収時、不足する買収金額を銀行から借り入れて補っていることから、買収時を公表した時点の株価は上昇していいませんが、2013年からは上昇しています。これは、グッドマン買収後の事業拡大の影響です。

M&A・買収後、ダイキンは北米市場にて2014年度前年度比21%増、2015年度は13%増と売上高になっています。ダイキンが買収後も業績と株価も好調な理由は、アメリカで市場シェア16%を占めていたグッドマン社を買収したことです。

現段階の傾向において、ダイキンの株価は引き続き上昇傾向になると考えられています。

②ソフトバンクグループによるイー・アクセスのM&A・買収

携帯電話やインターネット関連企業など運営するソフトバンクグループと、ブロードバンド通信サービスを提供するイー・アクセスのM&A・買収です。

M&A・買収の背景

ソフトバンクグループは、2012年10月1日にイー・モバイルが経営するイー・アクセスを、株式交換を通じてM&A・買収したことを発表しています。

このM&A・買収によって、ソフトバンクグループはイー・アクセスを完全に子会社化し、子会社のソフトバンクモバイルと業務提携を発表しています。2013年1月1日をもって株式交換が完了しました。

このときのイー・アクセスの株式評価額は1株あたり5万2,000円、買収総額は約1,800億円でした。

ちなみに、このM&A・買収によって、ソフトバンクはイー・アクセスに対して900MHz帯と2.1GHz帯を提供し、イー・アクセスはソフトバンクに1.7GHz帯を提供することになっています。結果的に2.1GHz帯と1.7GHz帯でFDD-LTEサービスを提供することになりました。

株価が上昇した要因

M&A・買収が報じられた2012年10月から、ソフトバンクグループ社の株価と日経平均株価の推移を見ると、このようになっています。

  株価終値 日経平均
2012年10月1日 3,105 8,796.51
2013年1月4日 3,125 10,688.11
2013年10月 7,300 14,327.94
2014年10月 7,939 16,413.76
2015年10月 6,797 19,083.1
2016年10月 6,602 17,425.02
2017年10月 9,947 22,011.61
2018年10月 9,048 21,920.46
(1株あたり・円)

イー・アクセス買収後のソフトバンクグループの2013年売上高と経常利益です。

  13年3月期 14年3月期 15年3月期 16年3月期 17年3月期 18年3月期
売上高 32,025 66,666 85,041 88,817 89,010 91,587
営業利益 7,993 10,770 9,187 9,089 10,259 13,038
(単位:億円)

(ソフトバンクでは、2014年4月1日から、日本基準の会計から国際会計基準(IFRS)で作成しているため、資料によって数字が異なることがあります。)

ソフトバンクグループの株価は、2017年10月時点9,000円を超える高値をマークしています。上記にはありませんが、2018年9月には10,000円を超えています。

ソフトバンクグループは、これまでのM&A効果もあり、売上高は現在9兆円を超すほどになっているものの、借金を意味する有利子負債が15兆円ほどある、極端な一面も持ち合わせています。

また、イー・アクセスのM&A・買収に限らず、ソフトバンクはM&Aで成長してきた企業で、企業でありながら投資家としての面も強い企業です。過去には、ボーダフォン、ダイエーホークス、日本テレコムなど、高い話題性のM&A・買収を実施してきました。

ソフトバンクグループの株価が上昇する理由としては、投資家にとって「投資のやりがい」のある企業といえるからでしょう。

今回のイー・アクセスのM&A・買収に限らず、例えば中国のインターネット通販最大手のアリババグループがあります。ソフトバンクは、アリババを関連会社として持っており、保有株式を持つアリババがニューヨーク証券取引所に上場した影響を受けて、ソフトバンクの株価も急上昇しています。

他にも、ソフトバンクがM&A・買収した海外事業の業績が回復中であることを受けて、ソフトバンクの株にも人気が集まる、などがあります。

買収企業自体が投資家であるために、M&A・買収した事業も影響を受けるケースです。

③レノボグループによるNECのパソコン事業のM&A・買収

中国のレノボグループと、NECのパソコン事業でもM&A・買収が実施されました。

M&A・買収の背景

2011年7月1日、NECのパソコン事業が売却され、中国レノボグループと新たに共同会社(レノボNECホールディングス)を設立しています。

その後、2016年7月1日NECが株式をレノボに譲渡し、保有する4万9,000株のうち、4万4,100株を約200億円で売却しています。結果的に、NECはパソコン事業から撤退しています。

株価が上昇した要因

節目ごとに見ると、NECの株価はこのようになっています。

  株価終値 日経平均
2011年7月1日 1,830 9,868.07
2016年7月1日 2,410 15,682.48
2017年7月 3,000 19,925.18
2018年7月 3,100 22,553.72
(1株あたり・円)

NECは、売却で得た対価を、社会インフラ関連のITの強化に使うことにしており、その期待値の反映として、株価も上昇しています。

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4. M&A・買収で株価が下落した事例と要因

M&A・買収で株価が下落した事例

M&A・買収で株価が上昇することがあれば、残念ながら株価が下落したケースもあります。ここでは、M&A・買収で株価が下落した事例と、その要因について解説していきましょう。

①パナソニック株式会社による三洋電機株式会社のM&A・買収

まずは、パナソニックが三洋電機をM&A・買収した事例です。買収企業側であるパナソニック社の株価が、三洋電機のM&A・買収後に下落しました。

M&A・買収の背景

パナソニックは、2008年12月に三洋電機と資本・業務提携契約を締結、その後三洋電機を2009年12月に株式交換、株式交換の効力発生日の2011年4月1日に、三洋電機を完全子会社化させています。

株価が下落した要因

  株価終値 日経平均
2008年12月 1,113 8,859.56
2009年12月 1,325 10,546.44
2011年4月 998 9,849.74
2012年2月 759 9,723.24
2013年2月 668 11,559.36
2014年2月 1,276 14,841.07
2015年2月 1,495 18,797.94
2016年2月 954.3 16,026.76
2017年2月 1,233 19,118.99
2018年2月 1,677.5 22,068.24
(1株あたり・円)

パナソニックは三洋電機を買収したものの、その後2012年3月期の連結最終赤字見通しとして、巨額の7,800億円の赤字を発表しています。加えて、パナソニックは、2011年10月にプラズマパネル工場の稼働停止に伴い、巨額損失も計上しています。

三洋電機買収で必要になった資金は、約6,600億円でしたが、半分以上の5,180億円が営業権(のれん代)でした。その際、2,500億円ののれん代を減損処理しています。結果的に、三洋電機への投資損失が、パナソニックにのしかかることになりました。

また、当初パナソニックは三洋電機との技術を用いた商品を作ることを目指していましたが、検討を続けるうちに、両社の技術には思想に根本的な違いがあることが判明します。

他にも、三洋の技術力を率いていた技術者が、海外企業に移り独立したり、三洋電機の買収にあたり時間を浪費してしまったりと、気付けば海外企業に市場の優位を明け渡すことになっていました。こうした背景から、株価が下落しています。

M&A・買収によって、一時期7,000億円近い赤字を抱え、株価も下落していたパナソニック。しかし、その後は少しずつ業績が回復するのに合わせ、株価も回復してきています。今後の株価の動きに注目です。

②SGホールディングによる日立製作所の一部事業のM&A・買収

続いて、日立製作所と佐川急便でおなじみのSGホールディングとのM&A・買収です。

M&A・買収の背景

日立製作所は、2016年3月末に、SGホールディングと資本・業務提携することを発表しています。日立製作所は、日立グループで出資している連結子会社である日立物流の株式のうち、一部をSGホールディングに875億円で売却しています。

一方、日立物流もSGホールディングが持つ佐川急便株の一部を663億円で買収することで、互いの統合を目指しています。その後、同年5月に株式の譲渡が実行され、日立物流は日立製作所から連結子会社を除外されています。

株価が下落した要因

  株価終値 日経平均
2016年3月 2,633 16,758.67
2016年4月 2,578 16,666.05
2016年5月 2,560 17,234.98
2016年6月 2,119.5 15,575.92
2016年7月 2,382.5 16,569.27
(1株あたり・円)

利益を安定して計上していた子会社が、別企業に分離された影響を受けて、短期的に株価が下落しています。

③ウェスチングハウス社によるCB&Iストーン&ウェブスター社のM&A・買収

最後は海外と日本との買収劇です。このウェスチングハウス社とCB&Iストーン&ウェブスター社との買収劇の事例は、東芝を主軸に解説しましょう。

M&A・買収の背景

2006年、東芝はイギリスの英国核燃料会社から、米原発子会社ウェスチングハウス社を買収します。その際、ウェスチングハウス社の買収額に54億ドル(当時のレートで約6,000億円余り)支払っています。これは、当時想定されていた額の3倍でした。

東芝に買収された後、ウェスチングハウス社は2015年3月にアメリカの原子力サービス会社のCB&Iストーン&ウェブスター社を買収しています。

株価が下落した要因

  株価終値 日経平均
2015年11月 3,009 19,747.47
2016年12月 2,831 19,114.37
2017年2月 2,082 19,118.99
2017年3月 2,414 18,909.26
(1株あたり・円)

株価が下落した要因として、ウェスチングハウス社が買収したCB&Iストーン&ウェブスター社ののれん代の存在があります。

当初は約105億円と考えられていたのれん代でしたが、2015年11月改めて調べたところ、実は約数千億円規模であることが判明します。

つまり、東芝にとって子会社である、ウェスチングハウス社が買収したCB&Iストーン&ウェブスター社の巨額のれん代の減損処理を、東芝がすることになったのです。

また、2011年には福島第1原発事故などもあり、世界的にも原発ビジネスは厳しいものになっています。コストは増加したり、安全性に対する懸念も高まったりと、想定していた収益があげられないなどの状況もありました。

ちなみに、ウェスチングハウス社とCB&Iストーン&ウェブスター社は、かつて共同事業を手掛けていましたが、そもそもビジネスでトラブルが多く、電力会社から訴えられるなどがありました。

こうした状況を受けて、2015年9月に東芝は内部管理体制に問題があるとして、東京証券取引所から特設注意市場銘柄に指定されています(現在は解除)。

また、東芝がウェスチングハウス社を買収したものの、技術力の中枢はウェスチングハウス社が知的財産として握っていることや、ウェスチングハウス社の役員リストに日本人は一部のみなど、実は疑問を抱かざるを得ないような買収劇でした。

このような原発ビジネスの買収劇には、単に東芝の思惑のみではなく、様々な要因が絡んでいることが分かります。

この買収劇は蓋を開けてみれば、結局のところどちらが買収したのか分からない状態になっています。このようにM&Aには、様々な思惑、予期せぬ事故、巨額ののれん代などが、株価にも影響を与えるケースもあります。

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5. M&A・買収で株価が上昇するメリット

M&A・買収で株価が上昇するメリット

企業価値が上がると、株価も一緒に上昇します。M&A・買収で株価が上昇するメリットは何でしょうか?一般的なメリットを紹介しましょう。

①自社の企業価値が上がる

株価とはその企業に対する時価、つまり、リアルタイムの評価が分かります。企業への社会的な信頼度にも影響されます。この社会的な信頼度は、金融機関への信頼度につながるため、銀行からの融資面で有利になります。

また、企業の社会的なイメージアップにもつながるため、優秀な人材も集まってきます。

②今後の資金調達が楽になる

株式は企業を維持するために重要な存在で、いわば株式市場とは資金調達の場です。企業が株式を新しく発行し、市場を通じて売り出し、投資家が買い付けることで、お金が集まります。そのお金が企業にとっての資金となります。

当然、株価が高額になるほど、企業にとっての資金集めは楽になります。株価が下落すると、反対に資金集めは苦労します。

また、企業の株価が上昇した状態で新しい株式を発行すれば、投資家が買いに集まるうえに、株主も「売らずに持っておこう」と考えるため、結果的に安定した株主の確保にもつながります。

③敵対的買収の予防にも繋がる

株価が高くなると、敵対TOBのように敵対的なM&A・買収の標的になりにくくなり、簡単に別企業に乗っ取られることが少なくなります。これは、企業側としては、安い株価だとすぐに売られる可能性があるためです。

逆に考えると、株価の高さはその企業の優位性を保つことになるので、M&A・買収で戦略的に使えます。

④従業員のモチベーションやモラル向上になる

ストックオプション(あらかじめ決められた価格で自社の株を購入できる権利のこと)制度のある企業だと、従業員や役員のモチベーションやモラルの向上の原動力につながります。

ちなみに、さほど技術や財力などがないにもかかわらず、やたらと株高を求める経営者がいる企業では、こうした事情が関係していることもあります。

6. M&A・買収で株価が下落するリスク

M&A・買収で株価が下落するリスク

企業価値が下がると、株価の下落につながります。M&A・買収で株価が下落すると、企業にとっていいことはありません。

「一時的に株価が下落しただけ」と、短期的に下落するケースも、もちろんあります。しかし、短期が重なることで長期になります。長期的な株価の下落になると、企業の財務に関わるので注意したいところです。

①誰も投資しなくなる

企業価値が下がり続けている企業は、「株式を買いたい」とは思わないでしょう。社会的な信用の下落にもなります。株価が上昇しないことには、企業が新たな株式を発行しても、買い手がつきません。

つまり、企業の資金調達ができなくなり、結果的に銀行からの融資にも苦労します。

②いい人材が集まらなくなる・人材が流出する

ストックオプション制度を導入している場合、株価が低いと従業員・役員のモチベーション・モラルの低下につながります。不安定な企業になるため、優秀な人材の流出にもなります。

また、企業評価の低い企業は、「ビジネスにならない」と社会的な評価に受け止められかねません。当然、そのような企業では、従業員の募集をかけても人が集まりにくくなります。

⓷他の企業から買収されやすくなる

株価が下落すると、他の企業や投資家から乗っ取られやすくなります。もし、敵対的買収になると、企業を守り抜くのは厳しくなるでしょう。そうなると、経営陣は総入れ替え、従業員の解雇なども考えられます。

④株主との関係が悪化する

テレビのニュースなどで、経営陣の責任を追及される場面を見たことがあるのではないでしょうか?株主との関係が悪化すると、経営不振の企業の株主総会で、経営者に対し株主から怒号が飛び交うことになります。

株主総会では、経営陣や役員の報酬や人事も決められているため、株主の機嫌を損ねると大変です。ひどくなると、経営陣は辞職させられることもあります。

7. 株価の算出方法

株価の算出方法

M&A・買収で企業評価を行うための代表的な株価(企業価値)の算出方法のうち、代表的な方法も簡単に紹介しておきましょう。
 

類似会社比準方式(マーケットアプローチ方式) 売却側企業と類似する企業の株式市場(マーケット)における株価を元に、企業価値を導き出す方法。
純資産価額方式 売却企業の持つ資産の時価から、負債を除いた額を企業価値と見なす方法。のれんが加わらないので、M&Aではあまり使われないが、国税庁で定められた方法。会社のグループ内で株主変更を行う場合などに有効。
収益方式 売却企業の収益に注目して、企業価値を導き出す方法。
配当還元方式 株主が将来受け取ると考えられる、1株当たりの配当金額を予測して、株式の価値を導き出す方法。
取引事例方式 売却企業側で、適正な売買があったと考えられる売買事例を元にして、評価する方法。その取引価額を元にして、株式の価値も算出。

8. M&A・買収で株価は上がる?下がる?のまとめ

まとめ

M&A・買収で株価は上昇するのか、下落するのかについて解説しました。M&A・買収は、確かに株価に影響を与えますが、様々な要因が絡むため、その後はどう転ぶのか、実際のところ誰にも分かりません。

しかしながら、株価は企業の評価に直結します。相手企業のリスクや、M&A実施後の業績などから、株価の上昇につなげられるM&A・買収ができるよう、事前に尽力すべきです。

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