2020年09月21日公開
2020年09月21日更新
買収防衛策とは?方法や事例、導入・廃止企業一覧【2020年最新】
買収防衛策とは、M&Aの敵対的買収を防ぐための対策を指します。M&Aは必ずしも売り手と買い手の合意のうえで行われるものではないため、買収防衛策が必要とされる場面もたびたび訪れます。本記事では、買収防衛策の方法や事例、活用している企業を紹介します。
1. 買収防衛策とは
買収防衛策とは、買い手側の敵対的買収に対する売り手側の防衛策のことです。買収されないようにする防衛策や、買収のターゲットにならないようにする対抗策などがあります。
株式会社は1/2を超える株式の保有者を実質的な経営者とするため、第三者に株式を買い集められると経営権を取得されてしまうことがあります。
株式を買い集める方法としては、証券取引所の株式売買やTOBなどがあります。特に、TOBは市場に出回っていない流動性の低い株式も取得できるため、買収される側にとって脅威の方法といえます。
この時、買収防衛策を実施することで買収者に株式を集中させないようにすることが可能です。
2. 買収防衛策を用いる方法
買収防衛策の方法は多岐に渡ります。大きく分けて、ターゲットにならないようにする予防策とターゲットにされた時の対抗策の2つに分けられ、さらに細かく分類されます。
それぞれ特徴のある方法であり、会社の状況に合わせて使い分けることで効果の最大化に期待することができます。この章では、買収防衛策の方法と特徴を解説します。
敵対的買収予防策
敵対的買収予防策とは、買収を仕掛けられる前から施しておく対策です。防衛を固めることで、買収者の買収意欲を削ぐ意味合いが強くなっています。
【敵対的買収予防策】
- ライツプラン・ポイズンピル
- 黄金株
- ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
- プット・オプション
- チェンジオブコントロール条項
- 非公開化
ライツプラン・ポイズンピル
ライツプラン・ポイズンピルは、あらかじめ既存株主に新株予約権を発行しておき、買収者の株式保有率を引き下げる買収防衛策です。
買収が進められ、買収側の株式保有率が危険水域に達したら、新株予約権を行使して新株発行により買収側の保有率を引き下げるという具合に実施されます。
新株予約権を発行する時点で買収者に対するけん制効果も期待でき、事前策として有用な買収防衛策として活用されています。
黄金株
黄金株とは、会社の合併などの重要議案を否決できる株式のことです。普通株式を買い占められた場合においても、黄金株の権利を行使することで買収を阻止することができます。
ただし、黄金株は経営陣が保有できないという制限があります。黄金株を機能させるためには、事前に友好的企業に渡しておき、権利を行使してもらう必要があります。
ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
ゴールデンパラシュートは、役員の退職金を高く設定して買収意欲を削ぐ買収防衛策です。退職金は会社にとって負債でもあるため、会社の価値を引き下げる効果が期待できます。
敵対的買収の場合、既存の役員を総入れ替えすることが一般的のため、退職金を支払わなくてはなりません。そのため、高額の退職金を設定しておけば、買収側にとって大きなダメージとなります。
ティンパラシュートは、従業員の退職金を高く設定して買収意欲を削ぐ買収防衛策です。同様の効果が期待できるうえ取締役会の決議のみで実行できるため、機動性が高いメリットもあります。
プット・オプション
ある株式について権利行使価格で売ることができる権利のことです。あからじめ権利付与しておくことで、買収防衛策として機能が期待できます。
敵対的買収の際、株式の買取や弁済を請求することができるようになります。買収後に多額の資金が必要となるため、金銭的なダメージを与えることができます。
チェンジオブコントロール条項
チェンジオブコントロール条項とは、M&Aなどにより経営権に変化が生じた際、制限や契約解除を発動することができる条項です。
敵対的買収は、買収対象の企業が保有する技術や、取引先などの確保が目的であることが多いです。あらかじめ本条項を設けておき、買収時に強制的に制限・契約解除させることで、買収者に渡ることを防ぐことができます。
非公開化
非公開化とは、上場企業が積極的に非上場化を行うことです。上場企業である以上、常に買収リスクを背負っていることになりますが、株式の非公開化を実行することで、買収リスクを大きく引き下げることが可能です。
非公開化の手法として一般的なものは、MBO(マネジメント・バイアウト)やLBO(レバレッジド・バイアウト)などです。
MBOは、会社の経営陣が投資家などからの融資を受けて既存株主から株式を買い取り独立する手法です。経営意思の統一が図れるため、迅速な意思決定ができるなどのメリットがあります。
LBOは、資産を将来的なキャッシュフローの担保として、金融機関などから融資を受けて買収する手法です。自己資本を抑えた買収が可能なので、行動を起こしやすいメリットがあります。
敵対的買収後の対策
続いて、敵対的買収を仕掛けられた後にとれる買収防衛策です。全部で8種類ある買収防衛策を分類ごとに紹介していきます。
信頼できる第三者との連携して対策
信頼できる第三者とは、主に友好的企業です。取引歴などが長く信頼することができる企業と連携した買収防衛策です。
【信頼できる第三者との連携による買収防衛策】
- ホワイトナイト
- 第三者割当増資
- 新株予約権の発行
- 第三者との株式交換・合併
ホワイトナイト
買収を仕掛けられた企業を、買収者と対抗するために信頼できる第三者が友好的に買収・合併することで、買収を回避する買収防衛策です。
具体的な方法としては、敵対的買収者よりも高価格でのカウンターTOBや株式交換などが考えられます。
買収を仕掛けられた後でも起こせる買収防衛策ですが、株式保有状況次第では結果的に経営権を手放すことになるため、協力者が信頼できるとしても相応の覚悟が必要になるでしょう。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を引き受けてもらうことで増資する手段です。通常は企業の資金調達方法として広く使われています。
買収防衛策としては、新株を発行することで一株あたりの価値を引き下げる目的で行われます。買収済みの株式の価値も引き下げられるため、ダメージを与えることができます。
新株予約権の発行
新株予約権とは、あらかじめ決められた価格で新株もしくは既存株式の交付を受けることができる権利のことです。
発行される株式数や権利などの条件については、あらかじめ決められた通りに行われます。現在の株価に関係なく、行使価格での交付を受けられるため、買収者の株式保有率の引き下げ効果が期待できます。
また、権利を付与された者の意思で権利行使を決定することができるため、最終的に行使しないという選択も可能です。そのため、ただのけん制という使われ方もしています。
第三との株式交換・合併
第三者との株式交換・合併とは、信頼できる第三者に自社株式を渡すことで買収を阻止する買収防衛策です。
実施するためには、株主総会における特別決議が必要です。株主総会の開催は、公開会社においては開催2週間前までに招集通知を発送する必要があるため、迅速な行動が求められます。
買収企業価値の低下させ対策
意図的に買収対象企業の価値を低下させることで、買収者の買収意欲を削ごうとする買収防衛策です。
【買収企業価値を低下させる買収防衛策】
- 焦土作戦(クラウンジュエル)
- 資産ロックアップ
焦土作戦(クラウンジュエル)
優良資産や収益性の高い事業を売却・分社化し、企業価値を引き下げて買収意欲を削ぐ買収防衛策です。買収者の買収動機である資産や事業を手放すことになれば、買収を諦めてくれる可能性が高まります。
既存株主の資産価値に強く影響することになるため、基本的に既存株主からの同意がなくては実行することができません。
名前の由来は、王冠(クラウン)から宝石(ジュエル)を取り外すことで王冠の魅力を引き下げて狙われなくする様からきています。
資産ロックアップ
資産ロックアップとは、第三者に対して買収などの特別な事由が発生した時に、重要な資産や事業を市場価格以下で取得できる権利を付与することです。
敵対的買収の成立と同時に重要な資産や事業が第三者に売却されてしまうため、買収者の意欲を削ぐことができます。
その他の対策
最後に、ここまで述べた買収防衛策のいずれにも分類されない、そのほかの対策を2つ紹介します。
【その他の買収防衛策】
- 増配
- パックマンディフェンス
増配
増配とは、株主への配当金を増やすことをいいます。一般的な企業は、1年間の事業活動で生み出した利益のなかから株主に対して配当を行いますが、意図的に増配することも可能です。
増配の口実は比較的適当でも問題ありません。業績向上・改善、〇周年や特別利益など、会社側の意思でコントロールすることができます。
増配すると、既存株主にとって株式の価値が高まります。TOBによる株式買付に応じる可能性を引き下げることで、買収防衛策としての機能が期待できます。
パックマンディフェンス
パックマンディフェンスとは、買収を仕掛けられた企業が、買収者の株式を買い集めて逆に買収を仕掛ける買収防衛策です。
会社法において、買収企業の株式25%以上を所有することで議決権を確保することができ、買収そのものを無効とすることができると定められています。
通常の買収では、1/2あるいは2/3を超える株式を目標に行いますが、パックマンディフェンスでは1/4超の株式を目指して議決権の確保を目指します。
名前の由来は、テレビゲーム「パックマン」です。ゲーム開始時は敵からひたすら逃げ回るだけですが、アイテムを取得することで逆に敵を攻撃できるようになる様と酷似していることから、パックマンディフェンスと呼ばれるようになりました。
3. 買収防衛策の事例と手法解説
この章では、買収防衛策の事例と手法を解説します。日本において敵対的買収事例はほとんどみられませんが、代表的な事例を紹介します。
【買収防衛策の事例】
- ライブドアによるフジテレビ買収に対する買収防衛策
- コクヨによるぺんてる買収に対する買収防衛策
1.ライブドアによるフジテレビ買収に対する買収防衛策
2005年2月、ライブドアはフジテレビの筆頭株主であるニッポン放送に対して敵対的TOBを実施しました。
本件は、筆頭株主のニッポン放送の買収によりフジテレビの経営権取得を図った買収でしたが、最終的にTOBは失敗に終わります。
失敗の決定打となったのは、フジテレビの友好的企業であるソフトバンク・インベストメント(現SBIホールディングス)がホワイトナイトとなったことです。経営権の取得が非現実的になり、ライブドアは買収から撤退せざる得なくなります。
この買収劇はメディアでも大きく取り上げられ、敵対的TOBや買収防衛策の意識が広まるきっかけとなりました。
2.コクヨによるぺんてる買収に対する買収防衛策
2019年11月、コクヨはぺんてるに対して敵対的TOBを実施しました。買付価格は1株あたり4,200円、買付期間は約1ヵ月で行われました。
結果からみると、TOBで取得した株式の議決比率は7.86%、既存の保有株式37.80%と合わせて45.66%となり、TOBは失敗に終わっています。
このTOBに対して行われた買収防衛策はホワイトナイトです。ぺんてるのホワイトナイトとして賛同したプラスが買付会社ジャパンステーショナリーコンソーシアム合同会社(JSC)を設立し、1株3,500円による買付を行いました。
敵対的買収者であるコクヨよりも低い金額によるカウンターTOBでしたが、ぺんてるが目指す価値観に共感された部分が大きく、JSCの買付に応じる株主が上回る結果となりました。
4. 【2020年最新】買収防衛策を導入している企業・廃止発表した企業
買収防衛策の導入・継続を進める企業がみられる一方で、廃止する企業の姿も見受けられます。
近年は特に廃止傾向が強まっていますが、買収防衛策に対する企業の姿勢はどのようになっているのでしょうか。
買収防衛策を導入している企業
買収防衛策の導入は、けん制力というだけでも十分なメリットがあります。デメリットも伴いますが、いくつもの企業が活用しています。
【買収防衛策を導入している企業】
- イオン
- 伯東
1.イオン
イオンは、ポイズンピルを導入しています。議決権20%以上の取得を目的とする買付に対して、ポイズンピルを実施することを公開しています。
2009年5月の第84期定時株主総会決議により、3年を有効期間として買収防衛策が導入され、3年おきに決議が取られて更新を続けています。
2.伯東
2020年、電子部品商社の伯東はポイズンピルを導入しました。2020年は7社が新しく導入しており、特定の株主に株式が集中していることを警戒して導入する流れが強まっています。
伯東も同様の理由により、2020年6月に行われた第68期定時株主総会にて、買収防衛策の導入が決議されました。
買収防衛策を廃止した企業
続いて、一度は買収防衛策を導入したものの、結果的に廃止した企業を紹介します。近年は廃止傾向が強まっており、十数年と継続した買収防衛策を廃止する企業が続出しています。
【買収防衛策を廃止した企業】
- パナソニック
- ワコール
- 日本製鋼所
1.パナソニック
2016年、パナソニックは2005年から実践していた買収防衛策の更新を行わないことを公式に発表しました。
廃止理由は、「国内外の機関投資家をはじめとする株主の意見」や「買収防衛策を巡る近時の動向」と発表されています。
買収防衛策の継続について、株主からの反対意見が相次いだことが大きな要因となったと考えられます。買収防衛策が経営陣の身の保身と受け取られてしまうと、株主からの厳しい反対に合うことも珍しくありません。
2.ワコール
2018年、ワコールは2006年から実践していた買収防衛策の更新を行わないことを公式に発表しました。2018年6月28日開催の第70期定時株主総会を終結をもって廃止されています。
廃止理由は、「金融商品取引法による大量取得行為に関する規制の浸透」や「買収防衛策を巡る近時の外部環境が買収防衛策の導入時から変化したこと」と発表されています。
買収行為に対する規制が広まった現代においては、買収防衛策の必要性が弱まったという判断のもと、今回の廃止へと至っています。
3.日本製鋼所
2020年、日本製鋼所は2007年から実践していた買収防衛策の更新を行わないことを公式に発表しました。2020年5月25日開催の取締役会をもって廃止されています。
廃止理由は、「日本製鋼所を取り巻く経営環境の変化」や「買収防衛策を巡る近時の動向」などを挙げています。
買収防衛策導入当時からの環境変化によって、継続の必要性がなくなったことで廃止されたと考えられます。
5. 買収防衛策を廃止する企業が増える理由
買収防衛策の導入企業と廃止企業では、廃止企業数のほうが比率が高まってきています。
2020年6月の日本経済新聞記事によると、買収防衛策導入企業は2015年478社から2020年289社と、約4割減少したことが明らかになっています。
しかし、何年も継続して実施してきた買収防衛策を廃止する理由とはどのようなものなのでしょうか。この章では、買収防衛策を廃止する企業が増える理由を解説します。
【買収防衛策を廃止する企業が増える理由】
- 株の流動性が低下する
- 株主や従業員の不利益になる
株の流動性が低下する
買収防衛策を廃止する理由1つ目は、買収防衛策は株の流動性が低下するためです。買収防衛策の多くは株の購入や取引に制限がかかることになるため、株価低下リスクが強まってしまいます。
株価低下は既存株主の資産価値の低下を意味するため、よく思わない株主からの反対をうけ、更新決議で否決されるケースが見受けられます。
株主や従業員の不利益になる
買収防衛策を廃止する理由2つ目は、買収防衛策は株主や従業員の不利益になるためです。買収防衛策のなかには、意図的に自社の価値を引き下げてターゲットにならないようにするものもあります。
買収側のメリットが薄まるため買収防衛策としては有効ですが、株主・従業員にとっては損失でしかないため歓迎されることはまずありません。
買収防衛策の導入の相談はM&A総合研究所へ
買収防衛策で株主からの理解を得るためには、専門家のサポートを受けながら計画を立てることをおすすめします。
M&A総合研究所は、M&A仲介の豊富な実績を持つM&A仲介会社です。数多くのM&A案件に携わることで蓄積した知識とノウハウを活用して、買収防衛策の導入をサポートいたします。
無料相談は24時間体制でお受けしています。買収防衛策の導入をご検討の際は、お気軽にM&A総合研究所までご連絡ください。
6. まとめ
本記事では、買収防衛策の方法や事例についてみてきました。敵対的買収を防ぐ防衛手段として有効なものですが、もちろんデメリットも存在しています。
デメリットは株主にとって不利益になるものが多いため、買収防衛策の導入は株主からの理解も得られるようにすることが絶対条件となります。入念な計画が必要になるため、専門家に相談することをおすすめします。
【敵対的買収予防策】
- ライツプラン・ポイズンピル
- 黄金株
- ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
- プット・オプション
- チェンジオブコントロール条項
- 非公開化
【信頼できる第三者との連携による買収防衛策】
- ホワイトナイト
- 第三者割当増資
- 新株予約権の発行
- 第三者との株式交換・合併
【買収企業価値を低下させる買収防衛策】
- 焦土作戦(クラウンジュエル)
- 資産ロックアップ
【その他の買収防衛策】
- 増配
- パックマンディフェンス
【買収防衛策を導入している企業】
- イオン
- 伯東
【買収防衛策を廃止した企業】
- パナソニック
- ワコール
- 日本製鋼所
【買収防衛策を廃止する企業が増える理由】
- 株の流動性が低下する
- 株主や従業員の不利益になる