2020年02月24日公開
2021年02月18日更新
総数引受契約とは?手続きや流れの注意点を解説【サンプルあり】
総数引受契約とは、募集株式の発行の際に、全ての募集株式を特定の引受人に割当てる契約のことです。手続きが簡略化されるので、第三者割当増資の際によく利用されています。本記事では、総数引受契約の手続き方法や記載内容、契約時の注意点などを解説します。
1. 総数引受契約とは
総数引受契約とは、新株の発行や自社で所有する自己株の処分の際に行う募集株式の契約の一種です。
募集する株式の種類・金額・総数などを事前に決めておき、引受人との合意のもとで全ての募集株式をある特定の引受人に割当てます。引受人が複数人または複数社となることもあります。
例えば、ある会社が事業拡大のための資金調達手段として新株発行を選択した場合、その新株の3分の2を取引金融機関、残り3分の1を自社の役員に割当てると決定したうえで新株を発行します。その際に引受人と交わす契約のこと総数引受契約といいます。
一般的に、引受人は取引先・取引銀行・自社の役員や社員に割当てられる場合が多くなっています。総数引受契約を交わすためには、引受人を決定し株式の種類や金額などを事前に打ち合わせる必要があります。
総数引受契約を交わす目的
総数引受契約により会社は簡略的に資金の調達ができ、工場建設や設備投資、海外進出などによる事業の拡大を素早く行えます。
募集株式による資金の調達には、公募・第三者割当・株主割当がありますが、多くの非上場の中小企業では公募で割当てるのは難しいため、第三者割当による資金の調達を選択します。
第三者割当の一種である総数引受契約は、引受人や引渡し株式数などを事前に決定したうえで行うため、申込みや割当ての手続きが省略されるので、スピーディーに株式を発行できます。
総数引受契約のメリット
総数引受契約は、1日で株式を発行したい場合にも対応ができます。通常、非公開会社が第三者割当の方法で株式を発行する場合、発行手続きにはさまざまな手順が必要です。
しかし、総数引受契約を締結していると募集株式の申込みや割当てを省略できるため、短期間で契約を成立させられます。登記手続きも含めて、最短1日で契約を完了するのも可能です。
最短1日で資本金や資本準備金を増やせるので、一刻も早く資金を調達したい会社にとっては非常に効果的な手法です。
また、銀行からの融資による資金調達とは違い、返済の必要がないこともメリットです。返済の必要がない代わりに、株主への配当などは必要となってきます。
総数引受契約の法的効果
総数引受契約は会社法第205条によって規定されており、募集株式の申込みと募集株式の割当てを定めた法律は適用されないとされています。
募集株式の申込みとは、募集株式を引受け希望している企業や個人に募集要項などを通知するなどの各種手続きのことで、募集株式の割当てとは、申込人の中から引受人を選んだり、割当てる株式の数を定めたりするものです。
総数引受契約ではこれらの手続きをする義務は発生しないので、申込者を選別したり割当てる株式の数を決めたりする必要はありません。
ただし、募集株式が譲渡制限株式である場合には、定款に別段の定めがない限り、株主総会や取締役会による決議が必要になります。
第三者割当増資との違いは?
第三者割当増資と総数引受契約を、並列に並べて比較はできません。なぜなら、総数引受契約は第三者割当増資の契約の一種であるためです。
第三者割当増資には、引受人や割当て募集株式数などを特定せずに募集を行うケースと、全ての募集株式を事前に特定した引受人に割当てるケースがあります。前者を申込割当方式といい、後者を総数引受方式といいます。
総数引受方式の手続きが簡略化されているため、短期間で契約を完了できるのが特徴です。
2. 総数引受契約の手続き
総数引受契約を行う際に必要となる手続きの手順は以下のとおりです。
【総数引受契約の手続き】
- 募集事項の決定
- 募集株式の申込み
- 割当決議
- 出資の履行
- 登記申請
①募集事項の決定
総数引受契約の手続きを進める際は、まず募集事項を決定します。募集事項に記載の必要がある項目は、会社法第199条に記されている以下の5点であり、株主総会もしくは取締役会による決議の必要があります。
【募集事項に記載する項目】
- 募集株式の数および種類
- 募集株式の払込金額または算定方法
- 金銭以外の財産での出資の場合には、その財産の内容と価額
- 払込期日または期間
- 増資により増加する資本金および資本準備金に関する情報
②募集株式の申込み
次に、募集株式の申込みを行います。募集株式の申込みとは、その名のとおり引受人が募集株式に申込むことです。
企業は引受人に対して募集事項などを通知し、引受人は引き受ける募集株式の数などを記した書類を、企業に交付しなければなりません。
ただし、総数引受契約では双方の合意のもと、事前に引受人や割当てる募集株式数が決まっているので、募集株式の申込みの手続きを割愛するのも可能です。
③割当決議
企業は、申込みをしてきた引受人にどれだけの株式を割当てるかを決めます。募集株式が、種類株式の一種である譲渡制限株式の場合は、株主総会もしくは取締役会の決議が必要になります。
なお、引受人が申込みの際に提示した募集株式数を下回る募集株式を割当てることも可能です。ただし、総数引受契約の場合は事前に割当て株式数が決まっているので、割愛するのも可能です。
④出資の履行
引受人は、募集事項に記されている期日までにもしくは期間内に、割当てられた募集株式の払込金額の全額を払込む必要があり、これを出資の履行といいます。
金銭以外の財産を出資する場合も同様であり、募集株式の払込金額の全額に相当する財産を給付しなければなりません。
⑤登記申請
最後に、法務局で登記の変更申請手続きを行い、総数引受契約の手続きは完了です。登記申請は、引受人の払込みによる増資の効力が発生した日から2週間以内に行う必要があります。
登記の変更申請には、総数引受契約書・株主総会または取締役会の議事録・払込証明書・資本金計上証明書・株主リストなどの書類が欠かせません。ケースによって提出書類が異なるので注意が必要です。
また、総数引受契約により資本金を増やすことになるので、登録免許税の納付が必要になります。増加した資本金の額の0.7%が登録免許税になり、3万円に満たない場合は申請1件につき3万円を納付します。
3. 総数引受契約を行う流れの注意点
総数引受契約を交わす際には、以下に注意が必要です。円滑に総数引受契約を交わすためには、これらのことに留意して契約書を作成しましょう。
【総数引受契約の注意点】
- 株主総会・取締役会の承認
- 契約の機会
- 必要事項の記載
- 第三者割当増資の具体的な内容
- 払込方法
- 引受人が海外企業の総数引受契約はその国の法律も確認
①株主総会・取締役会の承認
募集株式により増資を行う場合、株主総会もしくは取締役会での承認が必要になります。株主総会や取締役会では、募集事項の決定も行います。
会議の議事録は総数引受契約書に添付するのが望ましく、また、登記申請の際にも必要となるので、議事録を取ることを忘れてはいけません。
ただし、定款により別の承認者を明記している場合は、必ずしも株主総会や取締役会を開く必要はありません。
②契約の機会
複数の引受人と総数引受契約を交わす際には、円滑な契約締結のために契約の機会を一致させるようにしましょう。
例えば、新株の発行により増資を行う会社が、取引金融機関A銀行に300株、取引先企業B社に100株を割当てる総数引受契約を交わす場合、契約書には「A銀行に300株、B社に100株を割当てる」といった、全ての株式の流れを明記します。
これは、どの会社に何株を引渡すかわからなくなってしまうケースを防ぐために行います。素早く実施できるのがメリットの総数引受契約で、契約内容で混乱して時間がかかってしまっては意味がなくなってしまいます。
③必要事項の記載
総数引受契約書の記載内容は、会社法により必ず記載しなければならない内容が定められています。
それらの内容に漏れがないように記載するのが大切です。そのほか、必要に応じて記載項目を追加し、不備のない契約書を作るようにしましょう。
【記載が必要な項目】
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 払込みの取扱場所
- 引受人の住所、氏名もしくは名称
- 引き受ける募集株式数
④第三者割当増資の具体的な内容
第三者割当増資の具体的な内容には、募集株式の種類や数・払込金額または算出方法・払込期日・増資により増加する資本金および資本準備金などがあります。
これらは、株主総会もしくは取締役会で決定した募集事項で、会社法第203条により総数引受契約書に明記するように定められています。
また、募集事項を明確にすると、募集株式の内容が一目瞭然となり、円滑に第三者割当増資が実行されます。
⑤払込方法
増資を行う会社は、募集株式の対価を、金銭による払込みか、金銭以外の現物による払込みかを選択できます。
金銭による払込みの場合、1株当たりの金額または算出方法を契約書に明記する必要があります。同時に払込みの取扱場所(一般的には銀行などの金融機関)や払込期日または払込期間も記載します。
金銭以外の財物を出資する場合には、その内容を明記します。払込みの取扱場所や払込期日なども記載するようにしましょう。
⑥引受人が海外企業の総数引受契約はその国の法律も確認
海外の企業が引受人となる場合は要注意です。国によって法律が異なるため、相手国の法律をしっかり把握しておく必要があります。
また、言語が異なるために手間取ってしまったり、時差があることでコミュニケーションに時間がかかってしまったりするケースもあります。
円滑な総数引受契約を締結するためには、海外での案件に強い専門家のサポートを受けることをおすすめします。
4. 総数引受契約書のサンプル
総数引受契約書の内容に法律的な決まりはありませんが、引受人との合意が必要不可欠ですので、重要な事項や記載すべき内容を漏れなく記載する必要があります。
下記サンプルは、必要最低限の内容が記載されているものなので、必要に応じて追記しましょう。
【募集株式の総数引受契約書】
△△株式会社(以下「甲」)及び〇〇銀行(以下「乙」)及び株式会社××(以下「丙」)は、令和元年12月1日付取締役会決議及び令和元年12月3日付臨時株主総会決議に基づく甲の募集株式について、以下の通り総数引受契約を締結する。
第1条 甲は乙及び丙に対して、下記の要領で新たに発行する募集株式400株を割当てる。乙及び丙は本契約に承諾し、募集株式の総数を引き受けることを約する。
第2条 募集要項
1.募集株式の種類及び数
普通株式400株
2.募集株式の割当て方法
割当てを受けるもの 〇〇銀行
割当てる募集株式の種類 普通株式
割当てる募集株式数 300株
割当てを受けるもの 株式会社××
割当てる募集株式の種類 普通株式
割当てる募集株式数 100株
3.募集株式の払込金額
募集株式1株につき金20万円
4.払込期日
令和元年12月24日
5.払込みの取扱場所
神奈川県横浜市西区〇〇
ABC銀行AB支店
6.増加する資本金
募集株式1株につき金10万円
7.増加する資本準備金
募集株式1株につき金10万円
本契約成立の証として、本書を2通作成し、甲乙丙署名又は記名捺印のうえ、各1通を保有する。
令和元年12月5日
甲:△△株式会社 代表取締役〇〇 印
乙:〇〇銀行 取締役頭取〇〇 印
丙:株式会社×× 代表取締役〇〇 印
総数引受契約は、会社が複数の契約書で複数の当事者と契約を締結するケースでも、実質的に同一の機会に一体的な契約で募集株式の総数の引き受けられたものであれば、総数引受契約と認められています。
例えば、会社および複数の引受人全員が1通の契約書に記名押印するケースや、契約書を引受人ごとに締結するケースでも、内容に合意すれば良いことになります。
5. 総数引受契約書の記載内容
総数引受契約書には、必ず記載しなければならない項目があります。記載漏れがあると書類不備で契約締結に時間がかかってしまうので、それぞれの項目を理解し漏れのないように記載するようにしましょう。
総数引受契約書への具体的な記載方法は前項のサンプルを参照できます。本項では、記載内容のそれぞれの項目について詳しく解説します。
【総数引受契約書の記載内容】
- 募集株式数と種類
- 割当て方法
- 払込金額
- 増加資本金
- 増加資本準備金
- 払込期日
- 払込みの取扱場所・口座
①募集株式数と種類
まず一つ目の項目は、募集株式数と種類です。募集株式数では、増資のために新しく発行する株式の総数を、自己株式を売却して増資する場合には、売却する株式の総数を明記します。
募集株式の種類では、普通株式か種類株式かを選択します。種類株式には、譲渡制限株式や配当優先株式などがあります。
②割当て方法
割当て方法では、誰にどんな種類の株式を何株割当てるかの詳細を記載します。引受人が一人もしくは一社であれば、その引受人の名前や名称と割当てる株式数および株式の種類を具体的に記します。
一方で、総数引受契約では、引受人が複数人であっても契約は成立します。前項で例に挙げているサンプルは、複数人への割当ての契約書です。円滑な契約締結のために、全ての引受人への割当て方法を記載します。
③払込金額
払込金額は、引受人が支払う金額のことです。1株当たりの金額を記載するのが一般的です。引受人は1株当たりの金額と割当てられる募集株式数から払込金額を算出して払込みを行います。
金銭以外の財物での払込みも認められており、この場合は、その財物の種類や量など具体的な内容を明記します。
④増加資本金
増加資本金では、募集株式によって増える資本金の額を記載します。増加資本金は必ずしも記載する必要はありませんが、登記変更申請の際に必要な情報となるので、円滑な増資のためにも明記するようにしましょう。
資本金を増やした場合、設備投資や海外進出のような事業拡大に資金を充てられますが、増やしすぎると中小企業の優遇税制を受けられなくなったり、法人住民税が高くなったりする可能性もあるので注意が必要です。
次に解説する資本準備金に、募集株式による増資分を充てることでデメリットを回避できる可能性があることも覚えておきましょう。
⑤増加資本準備金
増加資本準備金では、募集株式によって増える資本準備金の額を記載します。増加資本金と同様に、記載の必要はありませんが、円滑な増資のために明記するようにしましょう。
会社法により、募集株式により増資した金額の半分を資本準備金に充てられると定められています。
資本準備金として積み立てておいた方が、資本金を抑えられ、転用しやすいなどのメリットを受けられるので、多くの場合、募集株式によって得られる金額の半分を資本準備金に充てます。
⑥払込期日
払込期日は、引受人が募集株式数に相当する金銭の支払いを完了する期日です。令和〇年〇月〇日~〇年〇月×日のように、期間を定めることも可能です。
万が一、払込期日までに払込みが完了しなかった場合は、引受人は募集株式の割当ての権利がなくなってしまいます。総数引受契約も無効となるので、契約の際には慎重に話を詰める必要があります。
⑦払込みの取扱場所・口座
払込みの取扱場所・口座は、引受人が金銭を支払う銀行を記載するのが一般的です。銀行の住所や名称などを明記します。
6. 総数引受契約書を作るうえでのポイント
総数引受契約書は、これまでに解説してきた総数引受契約の内容などを盛り込んで作成できます。
ポイントとしては、必要事項の記載漏れがないようにする、株主総会もしくは取締役会の決議が必要である、などが挙げられます。
では、実際に契約書を作成する際にはどのようにすればいいのでしょうか。総数引受契約書作成の実務的な部分を解説します。
総数引受契約書は個人で作っても問題はない?
総数引受契約書を個人で作ることに全く問題はありません。ただし、必要事項を漏れなく記載しなければならないので、総数引受契約や第三者割当増資、募集株式や種類株式などさまざまな専門的な知識が必要になってきます。
総数引受契約や付随する法律関係に対する知見が十分にあれば、契約書を作成し、引受人との契約を交わせます。
総数引受契約書を作成するツール
法的書類生成ツールを用いることで、個人でも簡単に総数引受契約書を作成できます。総数引受契約書なども含まれているため、契約書作成に必要な項目を空欄に記入するだけで、自動で総数引受契約書を作成してくれます。
ただし、ツールで作成できるのは画一的な文章の契約書です。標準的な契約内容であれば、問題なく簡単に作成できるため有効活用できます。しかし、特別な内容や文言が必要な場合にはツールを使えないデメリットもあるので、注意が必要です。
総数引受契約書は専門家に相談しながら作るべき
法的書類である総数引受契約書を作成するのは簡単ではありません。法律に関する知識などを要するため、個人で契約書を作成するには時間と労力がかかってしまいます。
それらを省き、安心して契約書を作成するには専門家に頼むのが一番の手段です。個人で法律を勉強し、総数引受契約書を作成する際、解決できない問題が発生する可能性もあります。
M&A総合研究所には、総数引受契約の経験が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。案件ごとに専任で就き、クロージングまでを丁寧にサポートいたします。
着手金、相談料無料の完全成功報酬制を採用しているため、安心してご利用いただけます。
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7. まとめ
本記事では総数引受契約について、総数引受契約締結の手続きとその注意点、総数引受契約書に明記しなければいけない内容などを解説しました。
非上場の中小企業が迅速に増資するためには、総数引受契約の利用が有効です。しかしながら、法的書類を作成するには十分な知識や理解が必要となるため、個人での契約書作成には、多くの時間と労力を費やさなくてはいけません。
迅速な増資を目指すための総数引受契約ですので、時間を短縮してより早く契約を締結するためには専門家に相談するのがおすすめです。
総数引受契約の利用やM&Aをご検討の方は、相談は無料で受け付けていますので、ぜひ一度M&A総合研究所へご相談ください。