2020年07月16日公開
2020年07月16日更新
持株会社設立による事業承継のメリット・デメリット!事業承継税制も解説
持株会社を設立して行う事業承継には、株価を抑えることによって節税効果に期待することができます。当記事では、事業承継の際に持株会社を設立・活用することのメリットやデメリット、事業承継税制に関する基礎知識について解説します。
目次
1. 持株会社とは
持株会社とは、自らは事業を行わずに子会社を支配することを目的とする会社です。従来は支配力の集中が懸念されるため認められていませんでしたが、1997年の独占禁止法改正により解禁されました。
企業が持株会社制度を導入する主な目的は、グループの意思決定の迅速化です。持株会社にグループ全体の舵取りを集中させることで、個々の子会社への指示出しやグループ全体の情報共有が円滑になります。
持株会社の収益源は、子会社からの配当です。自らは事業を行わないため一切の売上がありませんが、子会社の株式を保有しているので、子会社の業績に応じた配当金を獲得することができます。
2. 事業承継とは
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。会社が保有する全ての事業・資産を引き継ぐことで、会社・事業の存続を目的として行われます。
事業承継は、誰に引き継ぎするかにより特徴が大きく異なります。この章では、3つの事業承継の特徴について解説します。
【事業承継の種類】
- 親族内事業承継
- 親族外事業承継
- M&Aによる事業承継
1.親族内事業承継
親族内事業承継は、経営者の子どもや甥・姪などの親族に引き継ぎする方法です。実質的に親族に会社を譲ることになるので、中小企業の事業承継において最も大きな割合を占めています。
親族内事業承継のメリットは、幼い頃から後継者として育成準備を進めておけることです。事業承継する頃には経営者として醸成されていることが多く、会社の引き継ぎと事業展開がうまくいくケースが多くなっています。
一方のデメリットは、必ずしも経営者としての素質があるとは限らないことです。親族に引き継ぎしたいと考えていても、経営者としての素質がなければ会社経営がうまくいかなくなってしまう可能性もあります。
2.親族外事業承継
親族外事業承継は、役員や従業員などの親族外の人間に引き継ぎする方法です。親族に後継者候補がいない場合、社内で後継者候補をリストアップして育成・承継するケースが多くなっています。
親族外事業承継のメリットは、会社の文化や経営方針を熟知していることです。現経営者の経営から大きく転換することもないので社内からの反発も受けにくく、安定した事業展開が期待できます。
デメリットは、後継者候補に一定の資金力が求められることです。後継者候補に株式を取得できるだけの資力がないと事業承継できないため、経営者としての素質と資力の両立というハードルの高さが問題になります。
3.M&Aによる事業承継
M&Aによる事業承継は、M&Aで後継者を探して引き継ぐ方法です。従来の中小企業では親族内事業承継が一般的でしたが、近年は後継者不在の企業が増えているため、M&Aによる事業承継も珍しくなくなっています。
M&Aによる事業承継のメリットは、適任者に引き継ぎできることです。後継者候補の選定が親族内や社内に限定されないため、経営者としての素質が高い後継者に引き継ぎすることができます。
デメリットには後継者探しの難度があげられ、広範囲から後継者候補を探すためには、それに準じたネットワークが必要になります。
3. 持株会社設立して事業承継する流れ
持株会社設立による事業承継は、中小企業の遺留分対策や税金対策を目的とする場合に有力な選択肢のひとつです。
しかし、通常とは異なる手続きが必要になるので、全体の流れを事前に把握しておくことが大切です。この章では、持株会社設立による事業承継のおおまかな流れを確認していきます。
【持株会社設立して事業承継する流れ】
- 後継者による会社設立
- 設立した会社に株式を売却
- 株式取得資金の借入と返済
1.後継者による会社設立
まずは、後継者をオーナーとして会社を設立します。後に持株会社となる会社ですが、設立自体は特別に必要になる手続きはないので、通常の法人登記と同じ流れで問題ありません。
その後は事業会社の株式を取得することになるので、事業承継の後継者がオーナーという条件さえ満たしておけば大丈夫です。
2.事業会社の株式を設立した会社に売却
続いて、事業承継する事業会社の株式を設立した会社に売却します。この時点で現経営者から後継者に株式が渡るので、間接的に事業承継が行われたことになります。
現経営者が100%の株式を所有している場合は簡単ですが、株式が分散している場合は各株主から買い集めて完全に子会社化する必要があります。
その際は、後継者が個別に打診するよりも現経営者が事前に買い集め、100%の株式を所有しておくほうが効率的です。
3.株式取得資金の借入と返済
新設会社は資金がないことが多いため、金融機関からの借入で株式取得資金を補うことがほとんどです。後継者の資力がある場合は別ですが、事業会社を子会社化するだけの資金がない場合は借入が必要になります。
一時的に負債を抱えることになりますが、株式を売却した事業会社から返済を行うので長期的に利子が膨らんでいくことはありません。
金融機関側からしても即座に返済できることが分かっているので、借入の快諾も得られやすくなっています。
以上の流れならば、必要以上に資金を流出させることなく、節税対策を施した事業承継が可能になります。
後継者に一定の買取資金を求めることもないので、中小企業の事業承継において活用したい方法といえるでしょう。
4. 持株会社設立による事業承継のメリット・デメリット
持株会社設立による事業承継は、節税対策を始めとしたメリットがありますが、同時にデメリットも存在しています。この章では、持株会社設立による事業承継のメリット・デメリットについて解説します。
持株会社設立による事業承継のメリット
まずは、持株会社設立による事業承継のメリットを見ていきます。事業承継の際、新たに会社を設立することで得られるメリットには以下の2点があげられます。
【持株会社設立による事業承継のメリット】
- 手続きの簡略化
- 節税対策
1.手続きの簡略化
持株会社による子会社の株式取得という方法になるため、通常の事業承継の手続きを行う必要がない点が挙げられます。
経営権の移転ができればよいため、引き継ぎに関する資産・事業の個別な手続きは必要ありません。よって、現経営者から後継者への円滑な事業承継が実現可能です。
2.節税対策
持株会社の株式価値の評価は子会社の含み益の37%が控除されるため、株式価値の上昇を抑えることができます。
これは長期に渡って得られるメリットなので、持株会社化が早いほど大きな節税効果を得られるようになります。
また、持株会社化により株式を現金化させることで、株式評価上昇の影響を受けないようにする相続対策としても機能します。
現金化は親族内での財産分割という面でも有効であるため、大きなメリットといえるでしょう。
持株会社設立による事業承継のデメリット
持株会社設立による事業承継は、よいことばかりのようにもみえますが、いくつかのデメリットも存在しています。ここでは、主なデメリットを2つ取り上げます。
【持株会社設立による事業承継のデメリット】
- 持株会社設立までが大変
- 節税対策の否認リスク
1.持株会社設立までが大変
持株会社が株式を引き取るために必要な資金を用意するために、一時的に負債を抱えることになります。
持株会社化の完了と同時に返済することができますが、一定の利子が上乗せされることは承知しておかなくてはなりません。
加えて、持株会社を設立する理由付けという問題もあります。設立する理由や株主構成における不都合が生じないことを、明確化させておかなくてはなりません。
会社の設立自体は事務的な手続きで完了しますが、準備の面においては大変な手続き・流れがあります。
2.節税対策の否認リスク
税務署から否認されるリスクが高いという問題もあります。相続税評価額を引き下げる目的で行われる持株会社化は、否認されるケースが多くなっています。
というのは、中小企業の節税対策として広まったこともあり、税務署から厳しい審査が行われるようになったためです。
したがって、節税対策として利用する場合も、持株会社化するだけの正当な理由を他に用意しなくてはなりません。
5. 持株会社設立して事業承継する際のポイント
持株会社設立による事業承継は、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。主に意識を向けるべきポイントは以下の3点があげられます。
【持株会社設立して事業承継する際のポイント】
- 持株会社設立による株価の変動
- 株主変更
- 持株会社設立の理由
持株会社設立による株価の変動
持株会社設立による事業承継を節税対策とする場合は株価の変動がポイントになり、持株会社化によって株価を抑えることができれば、相続税を引き下げる効果が期待できます。
相続税の引き下げは、後継者の税金負担の軽減を意味しています。資金的な余裕がうまれれば、事業承継も円滑に進められるだけでなく、その後の経営もスムーズになりやすくなります。
特に中小企業の非公開株式は、換金性が低いにも関わらず高額の相続税・贈与税が課せられるため、後継者の税金負担は大きなものになるので、持株会社設立の株価変動を利用した税金負担軽減は不可欠といえるでしょう。
株主変更
持株会社が子会社の株式を取得することで、株主を後継者に変更することが可能です。子会社の経営権を取得することになるので、現経営者から後継者への事業承継が行われたことと同義になります。
株主が後継者に変更された後は、現経営者が子会社に残り続けることも可能です。いきなり会社経営の全てを任せることにはならないので、経営者として徐々に慣らしていくという方法も選択できます。
持株会社設立の理由
持株会社化の目的が節税対策のみと判断されると、税務署から指摘・否認される可能性が高くなります。
そのため、グループ全体の意思統一や経営効率化など、持株会社化により得られるメリットを合理的に説明しなくてはなりません。
税務署に否認されると事業承継ができなくなってしまうので、節税対策と同時に、持株会社を有効的に活用するための戦略策定と実践が必要になります。
6. 持株会社設立による事業承継税制
事業承継税制とは、事業承継にかかる相続税・贈与税の猶予又は免除を受けられる制度です。
従来は活用しづらい面もありましたが、平成30年改正により適用範囲や適格要件が見直され、申請件数が急増しています。
中小企業の事業承継支援を目的とした制度ですが、持株会社でも事業実態要件を満たすことで事業承継税制の適用を受けることが可能です。
事業実態要件とは、持株会社の目的が資産の管理・運用だけではなく、事業の実態があることを証明する要件であり、以下の3つが定められています。
【事業実態要件】
- 常時使用する従業員(後継者と親族を除く)が5人以上
- 事業を行うための事務所などの所有または賃借
- 贈与日まで引き続き3年以上事業を行っている
7. 持株会社を設立して事業承継をする際の相談先
持株会社設立による事業承継にはさまざまなメリットがあり、上手に活用すれば高い節税効果を得ることができるので、事業承継の際は積極的に活用したい方法のひとつです。
その一方で、税務署からの否認リスクや事業承継税制の適用など、難しい問題があります。これらの問題を解決して事業承継を成功させるためには、事業承継の専門家に相談することをおすすめします。
M&A総合研究所は、M&Aと事業承継のサポートを行っているM&A仲介会社です。特に中小企業の事業承継に関するご相談を多くお受けしており、さまざまなの事業承継のサポート実績を持っています。
豊富な経験を持つ事業承継の専門家が在籍しており、持株会社設立による事業承継もスムーズに実行することができます。
サポートの際はアドバイザー・会計士・弁護士が3名体制で担当につきますので、安心・スムーズな事業承継が可能です。
事業承継に関する無料相談は24時間体制でお受けしています。持株会社による事業承継を検討の際は、お気軽にご連絡ください。
8. まとめ
事業承継にはさまざまな方法があり、また、中小企業の事業承継も在り方が多様化してきています。持株会社設立による事業承継もそのひとつであり、節税効果を始めとした大きなメリットが得られます。
現経営者や後継者の状況に合わせた方法を選択できれば、よりよい形で事業承継することができます。最善の方法を選択するためにも、早期からの準備を進めておくことをおすすめします。
【持株会社の事業承継まとめ】
- 持株会社とは自らは事業を行わずに子会社を支配することを目的とする会社のこと
- 事業承継とは会社の経営を後継者に引き継ぐこと
- 持株会社も事業承継税制の適用が可能
【事業承継の種類】
- 親族内事業承継
- 親族外事業承継
- M&Aによる事業承継
【持株会社設立して事業承継する流れ】
- 後継者による会社設立
- 設立した会社に株式を売却
- 株式取得資金の借入と返済
【持株会社設立による事業承継のメリット】
- 手続きの簡略化
- 節税対策
【持株会社設立による事業承継のデメリット】
- 持株会社設立までが大変
- 節税対策の否認リスク
【持株会社設立して事業承継する際のポイント】
- 持株会社設立による株価の変動
- 株主変更が自由
- 持株会社設立の理由付けが必要