2020年09月13日公開
2020年09月13日更新
廃業による従業員の解雇を解説!もめない方法や注意点、退職金、年末調整
廃業時は従業員を解雇することになりますが、その際は従業員に対して適切な対応を行う必要があります。本記事では、廃業を理由として従業員の解雇を行う場合の従業員ともめない方法や注意点、廃業の際に従業員に対して行わなければならない手続きなどについて解説します。
目次
1. 廃業による従業員の解雇を解説
解雇とは、雇用側が解雇の通知をすることで、雇用契約を終了することを指します。
解雇による方法以外にも、退職勧奨によって従業員との雇用契約を終えることもできます。退職勧奨とは、雇用側が従業員に退職するよう促し、従業員が退職届を提出することで退職してもらう方法です。
本章では、廃業などによって従業員に退職してもらう場合の、解雇の種類や従業員への影響について解説します。
解雇には4つの種類がある
解雇は、その理由によって以下の4種類に分けられます。
- 懲戒解雇
- 諭旨解雇
- 普通解雇
- 整理解雇
1.懲戒解雇
懲戒解雇(ちょうかいかいこ)は、従業員の規律違反を理由として解雇を行います。雇用側は従業員の同意を得ることなく、一方的に解雇を通知できます。
懲戒解雇に該当する規律違反として以下の例が挙げられます。
- 業務上の不正行為
- 重要な業務命令の拒否
- パワハラやセクハラ
- 無断欠席
2.諭旨解雇
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、従業員が上記の懲戒解雇の規律違反に該当しているものの、雇用側の判断によって処分をいくらか軽くした場合を指します。
懲戒解雇と諭旨解雇の大きな違いとしては、懲戒解雇は雇用側が従業員を一方的に解雇できるのに対して、諭旨解雇は雇用側が従業員を説得したうえで行われる点です。
3.普通解雇
普通解雇は、雇用側の事業継続が困難な場合や、従業員の能力に問題があった場合などに行われます。普通解雇には以下の例が該当します。
- 会社側の経営難や廃業
- 従業員の病気やケガ
- 能力不足
- 成績不振
4.整理解雇
整理解雇は、事業の継続が困難となった場合に従業員を整理する目的で行われる方法です。整理解雇は普通解雇の中のひとつに含まれます。
整理解雇を行うには、4つの条件を満たさなければ実行が認められません。4つの条件とは、本当に整理解雇が必要か、整理解雇以外の方法をやり尽くしたか、解雇する人材の選択は妥当か、解雇手続きは妥当か、の4つです。
会社が廃業した場合、従業員が受ける影響
会社が廃業した場合、従業員は影響を受けることになりますが、主なものには以下の3つがあります。
- 給与・賞与への影響
- 各種保険への影響
- 従業員家族への影響
1.給与・賞与への影響
廃業を理由に従業員を解雇する場合、雇っている側は解雇の少なくとも30日前までに通告しなければなりません。もし解雇通知が間に合わない場合、雇用側は解雇予告手当を支払わなければなりません。
給料をいつまで支払うかは、従業員と個別に話し合うなどして決める必要があります。廃業まで仕事がない従業員が出てくる一方で、経理のように廃業まで仕事をしてもらう必要のある従業員もいます。
廃業までの給与・賞与に関しては従業員によって差が生まれることになるので、個別に納得を得られるかが重要なポイントになります。
2.各種保険への影響
廃業による解雇は会社都合による退職となるため、従業員は廃業による退職後すぐに失業保険を受給することができます。
そのため、従業員がハローワークで失業保険の手続きをする際は、雇用側が離職票などの必要書類を速やかに渡さなければなりません。
また、雇用側は廃業前日までに、健康保険被保険者証を従業員の家族分も含めて回収する必要があります。
そのほかにも、廃業後は源泉徴収票の交付や健康保険・雇用保険・年金の手続きなどが必要です。廃業の際はこれらの手続きを最後まで責任持って行わなければなりません。
3.従業員家族への影響
廃業によって従業員が仕事を失うということは、従業員の家族も影響を受けることになります。
雇用側は、廃業の際に従業員の再雇用先を探すなど精一杯のサポートをしながら、正直に現状を伝えるなどの誠意を見せていく必要があります。
従業員だけでなく従業員の家族からも廃業に納得してもらえるようにし、廃業まで協力してもらえるような状況が作れれば理想といえるでしょう。
2. 廃業により従業員を解雇する際にもめない方法とは
廃業する際の対応によっては、従業員とトラブルになる可能性もありますが、以下のように適切に対応することでトラブルを防ぐことができます。
- 事前に通告する
- 未払いの賃金などを支払う
- 従業員に今後の手続きを伝える
- 可能であれば次の就職先を斡旋する
1.事前に通告する
雇用側は廃業の少なくとも30日前までに通知を行わなければなりませんが、早めに廃業する旨を伝えることで従業員も心の準備や身辺の整理を余裕を持って行うことができ、トラブルの可能性を少なくすることが可能です。
廃業することをなかなか伝えられずギリギリになって伝えるケースも少なくありませんが、そうなれば従業員やその家族の不信感を募らせることになりかねません。
また、次への準備期間が短いことから従業員やその家族のイライラも募り、もめる原因になる可能性もあります。廃業の際は従業員に対して誠意ある対応が大切です。
2.未払いの賃金などを支払う
未払い賃金がある場合は、できるだけ早く、ほかの支払いよりも優先して支払うことが重要です。家賃や買掛金と従業員への未払金のどれを優先して払えば良いか迷う雇用側も多いですが、一般的には従業員への未払い賃金を優先すべきとされています。
なお、廃業の際にどうしても従業員へすべての未払い賃金が支払い切れないケースもあるでしょう。そのような場合は、従業員としっかり話し合ったうえで、賃金の一部カットを受け入れてもらう方法もあります。
ただし、その場合トラブルに発展する可能性もあるので、独断で対応せず弁護士に相談しながら進めていくことが大切です。
もし未払い賃金がどうしても払えないのであれば、国の制度でサポートしてもらえる場合があります。
3.従業員に今後の手続きを伝える
従業員に廃業の旨を伝えた後は、廃業の前後で従業員に対してどのようなサポートをする予定か、従業員にはどのような手続きなどをしてもらう必要があるかなどを詳細かつ誠実に伝える必要があります。
廃業までの対応は、全従業員に共通する部分と従業員によって違う部分がでてくるため、対応は個別に丁寧に行わなければなりません。
その際、従業員によっては不公平さを感じる人がでてくる可能性があります。不公平さによる不満が噴出しないよう、詳細なスケジュールの説明とともに、なぜそのようなスケジュールになったのか丁寧に説明することも重要です。
4.可能であれば次の就職先を斡旋する
従業員にとって大きな心配事は、次の就職先がみつかるかどうかという点です。その心配は従業員だけでなく、多くの経営者にとっても同じです。
多くの経営者は、廃業を検討する際、従業員に迷惑をかけることをとても気に病む傾向にあります。経営者によっては、すべての従業員が再就職先をみつけるまで全面的に面倒をみるなどの対応をするケースもみられます。
徹底的に再就職先の面倒をみるのは難しくても、出来る限り再就職をサポートすることで、従業員も多少安心して冷静な行動が取れるようになり、再就職もしやすくなるでしょう。
3. 廃業により従業員を解雇する際の注意点
廃業により従業員を解雇する際は、どのような点に注意しておけばよいのでようか。ここでは特に注意すべき以下の2点について解説します。
- 訴訟リスクを抱える
- ノウハウや技術の流出を覚悟する
1.訴訟リスクを抱える
廃業が理由で従業員を解雇する場合、状況によっては訴訟になる可能性もあります。特に、未払い賃金がある場合は、対応を間違うとトラブルに発展する可能性が高くなります。
未払い賃金が残ったまま廃業することになった場合、未払賃金立替制度が利用できる場合があります。未払賃金立替制度とは、労働者健康福祉機構によって未払い賃金の8割を立て替えてもらえる制度です。
ただし、未払賃金立替制度によって建て替えてもらった未払い賃金は、後で労働者健康福祉機構に支払う必要があります。
また、未払賃金立替制度は倒産や事実上の倒産の際に利用できる制度なので、廃業の状況によっては利用できない場合がある点に注意が必要です。
2.ノウハウや技術の流出を覚悟する
廃業によって役員・従業員が流出するということは、その役員・従業員が身に付けた自社のノウハウや技術も流出する可能性があるということにもなります。
経営者によっては、いくら廃業してもう事業を行うことはないといっても、やはり自社のノウハウや技術が流出することに抵抗がある方もいるでしょう。
ノウハウや技術の流出・喪失をさせたくない場合は、M&Aによって他社に事業を引き継ぐ方法もあります。
M&Aによる事業売却であればノウハウや技術が残せるだけでなく、従業員の雇用も守ることができ、オーナー経営者は売却益を獲得することも可能です。
廃業ありきで考えるのではなく、M&Aなど複数の選択肢を比較検討してみることも必要です。
4. 廃業により従業員を解雇する際の退職金の扱い
廃業する際は、従業員への退職金の扱いにも注意が必要です。退職金の扱いは賃金とは異なる部分があり、役員と従業員でも違いがあるため、よく確認しておく必要があります。
退職金が支払う場合
会社に退職金制度があり、従業員が退職金規定に該当している場合は退職金を支払う必要があります。退職金の支払いは賃金の場合と同じく、なるべく優先的に支払う必要があります。
また、廃業のように会社都合で従業員を解雇する場合、退職金を上乗せして支払うケースもみられます。
なお、役員の報酬や退職慰労金も支払う必要はありますが、従業員への支払いを優先して行うことが一般的です。
退職金が支払えない場合
賃金の場合と同じく、従業員への退職金も優先的に支払うべきものではあります。しかし、実質倒産のような状況で廃業した場合、どうしても退職金が支払えないケースもあります。
前述したように、賃金の場合は未払賃金立替制度によって労働者健康福祉機構に立て替えてもらうことが可能です。
しかし、退職金の場合は未払賃金立替制度を利用することができません。廃業する際は、従業員へ賃金や退職金などを支払う余裕にあるうちに廃業することが理想です。
5. 廃業により従業員を解雇する際の解雇予告手当とは
前述のように、廃業を理由に従業員を解雇する場合、雇っている側は解雇する少なくとも30日前までに解雇する旨を予告しなければなりません。もし30日前までに解雇通知が間に合わない場合、雇用側は解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇予告手当の支払額は、廃業の何日前に解雇を通知したかによって変わります。例えば、解雇日当日に通知した場合の解雇予告手当は平均賃金の30日分となり、また、廃業の15日前に通知した場合は平均賃金の15日分を支払うことになります。
6. 廃業により従業員を解雇する際の年末調整
廃業によって解雇となり、その年のうちに再就職先が決まらなかった場合、その元従業員は確定申告によって年末調整を行う必要があります。
年末調整によってその元従業員は所得税が還付されるので、大事な手続きです。元従業員が確定申告により年末調整を行うには、廃業後1ヶ月以内に雇用していた側が給与所得の源泉徴収票を交付していなければなりません。
従業員の退職後の手続きに対しても、雇用していた側としてしっかりと行う必要があります。
7. 廃業せずにM&Aを選択すると従業員は価値に変わる
ここまで廃業による従業員の解雇を中心にご紹介してきましたが、選択肢は廃業だけではありません。
廃業せずにM&Aを選択することで会社や従業員、取引先などを守ることができ、従業員の持つノウハウ・技術は無駄にならなくて済む可能性が高くなります。
廃業を検討し始めたら、M&Aも選択肢に含めて検討し、専門家に相談することをおすすめします。しかし、専門家には数多くの種類があり、専門家によってアドバイスの内容やサポートの仕方も変わります。
余裕のあるうちにまずは自社に合った専門家を見つけ、まず相談してみることで従業員を守ることも可能となります。
8. 廃業せずにM&Aする場合は仲介会社がおすすめ
上記のように、廃業ではなくM&Aを選択することで従業員を守るという選択肢もあります。しかし、最適なM&Aを行うには、自社に合った種類の専門家選びが欠かせません。
M&A総合研究所では、M&Aの専門家によるフルサポートと、AI技術を活用した高精度のマッチングにより、成約まで最短3か月というスピード成約を可能にしています。
また、M&A総合研究所ではM&Aが完了するまで手数料が発生しない完全成功報酬制を採用しています。
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9. まとめ
本記事では、廃業による従業員の解雇について解説しました。解雇とは、雇用側が解雇の通知をすることで雇用契約を終了することを指し、解雇以外に退職勧奨によって従業員との雇用契約を終えることもできます。
廃業する際の対応によっては従業員とトラブルになる可能性もあるため、適切かつ真摯に対応するよう心がける必要があります。
廃業となれば、従業員の再就職先やノウハウの流出などを考えなければなりませんが、M&Aを行うことでこれらを解決することも可能になるため、廃業を決断する前にM&Aなどの手段も検討してみることをおすすめします。
【解雇の種類】
- 懲戒解雇
- 諭旨解雇
- 普通解雇
- 整理解雇
【会社が廃業した場合の従業員への影響】
- 給与・賞与への影響
- 各種保険への影響
- 従業員家族への影響
【廃業により従業員を解雇する際にもめない方法】
- 事前に通告する
- 未払いの賃金などを支払う
- 従業員に今後の手続きを伝える
- 可能であれば次の就職先を斡旋する
【廃業により従業員を解雇する際の注意点】
- 訴訟リスクを抱える
- ノウハウや技術の流出を覚悟する