2020年10月15日公開
2020年10月15日更新
吸収分割とは?吸収分割、新設分割、事業譲渡との違いを比較
吸収分割は会社が営んでいる事業の一部をほかの会社へ承継することができ、組織再編手法としてもよく利用されます。本記事では、吸収分割の目的やメリット・デメリット、似た面を持つ新設分割や事業譲渡と吸収分割との違いを比較解説します。
1. 吸収分割とは
吸収分割とは会社分割の一種で、既存の会社に事業を承継させるM&A・組織再編手法です。
会社分割には新設分割という手法もあり、新設分割では新たに設立した会社に事業を承継させます。吸収分割と新設分割の違いは、事業を承継する会社が既存か新設かという点です。
事業を承継させるという点では事業譲渡にも吸収分割と似た要素がありますが、さまざまな点で違いがあります。事業譲渡と吸収分割の違いについては、後の章で詳しく解説します。まずこの章では、吸収分割の目的やメリット・デメリットなどについて解説します。
吸収分割の目的
吸収分割は、主にグループ企業内での再編や経営統合に用いられます。例えばグループ企業内の2つの会社がほぼ同じ事業を営んでいると、経営の効率が悪くなります。その場合は吸収分割で事業を一つの会社に統合すれば、経営をスムーズに進めていくことができます。
また、完全親会社が完全子会社へ事業を吸収分割する場合、「無対価会社分割」という対価が必要ない吸収分割が可能となるので、グループ再編が行いやすくなります。
さらに、事業譲渡と同じ効果のある取引をより簡便に行いたい、対価を株式で支払いたいといった目的で吸収分割が行われることもあります。
吸収分割のケース
会社分割は、承継会社(事業を譲り受ける側の会社)の違いによって吸収分割と新設分割に分けられますが、さらに対価の支払先の違いによって「分社型」と「分割型」に分けることができます。
よって、吸収分割は分社型吸収分割と分割型吸収分割に分けられるとともに、新設分割も分社型新設分割と分割型新設分割に分けることができます。ここでは、吸収分割のケースである、分社型吸収分割と分割型吸収分割を解説します。
【吸収分割のケース】
- 分社型吸収分割
- 分割型吸収分割
1.分社型吸収分割
分社型吸収分割とは、対価の支払いを分割会社(事業を譲り渡した側の会社)が受け取る吸収分割のことです。
分割会社が承継会社の株主となるので対価として支払う株式が十分多ければ、両社は親会社・子会社の関係となります。
分割会社と承継会社が親子関係、つまり上下の関係になることから、「タテの会社分割」と呼ばれることもあります。また、法律関係の話をする時は「物的分割」と呼ばれることもあります。
2.分割型吸収分割
分割型吸収分割とは、対価の支払いを分割会社の株主が受け取る吸収分割のことです。分社型吸収分割が物的分割と呼ばれるのに対して、「人的分割」と呼ばれることがあります。
分社型吸収分割では分割会社と承継会社が親会社・子会社の関係になりますが、それに対して分割型吸収分割は会社同士の親子関係が生じず、両社が対等な立場を維持するのが特徴です。
会社同士が対等な関係つまり横並びの関係になることから、分割型吸収分割は「ヨコの会社分割」と呼ばれることもあります。
吸収分割のメリット・デメリット
M&Aや組織再編の手法にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、どのような目的でM&A・組織再編を行うのかによって適した手法を選ぶことが重要です。この節では、吸収分割のメリット・デメリットについて解説します。
吸収分割のメリット
吸収分割の主なメリットとしては、中核事業の効率化・不要な事業の切り離しなど、以下の4つが挙げられます。
【吸収分割のメリット】
- 中核事業の効率化
- 不要な事業の切り離し
- 組織の整理
- 株主の意見の整理
1.中核事業の効率化
吸収分割は一部の事業だけを切り離せるのが特徴なので、この性質をうまく利用するとメリットを享受することができます。
例えば、複数の事業を営んでいる会社が中核事業以外の事業を吸収分割で譲渡すれば、中核事業を効率化できます。
吸収分割することで会社の規模は小さくなりますが、中核事業に経営資源を集中させて事業拡大できる見込みがある場合は、吸収分割のメリットのほうが大きくなります。
2.不要な事業の切り離し
前述の中核事業の効率化と似ている部分もありますが、複数の事業を営んでいる会社が不採算事業を吸収分割で譲渡することにより、採算のとれる事業に集中できるようになります。
採算が取れない事業だけでなく、今現在は採算はとれているものの、将来性がない事業を早めに切り離してしまうといった戦略も可能です。
不採算事業や不要な事業を吸収分割するのは有効な手段ですが、承継してくれる企業をうまくみつけられるかという問題もあります。自社にとって不要と感じる事業であるため、承継会社にとっても魅力的でない可能性は十分あります。
不採算事業や不要な事業を吸収分割するには、承継会社の事業資産を使えば黒字化が十分見込めること、自社にとっては不要でも承継会社にとっては高いシナジーが見込めることなどが必要になります。
3.組織の整理
一つの会社が複数の事業を営んでいると、どうしても組織の構造が複雑になり、それによって事業効率の低下や余計なコストが生じます。
組織の複雑さによる不利益を解消するために、吸収分割で組織を整理するというのも有効な使い方です。
4.株主の意見の整理
一つの会社が複数の事業を営んでいると、A事業に注力してほしい株主とB事業に注力してほしい株主が分散し、株主の意見が統一できなくなることがあります。
株主の意見が統一できないと会社の意思決定がうまく行えなくなるので、その会社が営んでいる全ての事業に悪影響を及ぼしてしまいます。
吸収分割でA事業・B事業どちらかを別な会社に任せれば、株主の意思統一が行いやすくなります。
吸収分割のデメリット
吸収分割の主なデメリットとしては、スケールメリットの減少・優秀な人材が流出する可能性が挙げられます。
【吸収分割のデメリット】
- スケールメリットの減少
- 優秀な人材が流出する可能性
1.スケールメリットの減少
吸収分割すると分割会社の規模が小さくなるので、スケールメリットが減少する可能性があります。
スケールメリットの減少はコストの増大や経営の非効率につながるので、効率化を目的に吸収分割を行う際は注意する必要があります。
例えば、吸収分割により会社の規模が縮小したことで、工場などの設備の縮小が必要になる場合は、設備投資が無駄になる可能性も考慮しなければなりません。
また、複数の事業で同じ原材料を仕入れてコスト削減していた場合、吸収分割で事業が別会社になってしまうと、スケールメリットを失う可能性があります。
2.優秀な人材が流出する可能性
吸収分割すると、分割した事業で働いていた従業員は承継会社へ移籍することになります。吸収分割により優秀な人材が流出してしまう場合は、そのデメリットを効率化などのメリットと天秤にかけて考えなければなりません。
吸収分割でよくあるのは、分割に不安や不満を感じた従業員が退職してしまい、結果的に優秀な人材を失ってしまうケースです。
従業員は会社に愛着を持っていることも多いので、吸収分割で別会社へ移籍するのをよしとしない人もいます。
それ以外にも、企業風土が合わない、給与などの待遇面が不満といった理由で、従業員が退職してしまうケースも多くみられるため、吸収分割を行う際は従業員へしっかりとした説明を行うことが大切です。
2. 吸収分割と新設分割の違い
会社分割では吸収分割のほうがよく使われますが、新設分割についても理解しておくことが大切です。
新設分割は吸収分割より手続きが難しい面がありますが、吸収分割にない独自のメリットも存在します。この章では新設分割のメリット・デメリットや、吸収分割との違いについて解説します。
新設分割とは
新設分割とは、事業を譲り受ける承継会社を新設して行う会社分割です。新設分割も吸収分割と同様に分割型と分社型があり、分割型新設分割と分社型新設分割に分類することができます。
また、複数の会社が事業をそれぞれ分割し、新設会社に承継させてまとめてしまうことも可能で、このスキームは「共同新設分割」と呼ばれます。
新設分割の目的
新設分割の基本的な目的は吸収分割と同じですが、承継会社が自社で事業を承継するのではなく、新設した子会社に承継したい場合などは、吸収分割でなくあえて新設分割を使う目的があるといえます。
いわゆる第二会社方式による再生型M&Aも、新設分割を行う目的としてよくみられるものです。不採算事業を分割して採算部門を残し事業再生を図ることもできますが、第二会社方式では逆に採算部門を新会社に譲渡して分割会社は清算します。
承継会社としては、譲受するのが新会社だと簿外債務などの心配がなく、抵抗なく受け入れられるメリットがあります。
新設分割のメリット・デメリット
新設分割のメリット・デメリットは吸収分割と似ている部分もありますが、新設分割ならではのメリット・デメリットもあります。ここでは、主に吸収分割と比較した場合の新設分割のメリット・デメリットを解説します。
新設分割のメリット
新設分割のメリットとしては、再生型M&Aに使いやすい点が挙げられます。新設会社に事業を分割した後にその会社を承継会社が株式譲渡で買い取れば、分割会社には対価として現金が手に入ることになります。
この現金を債務の弁済にあてたうえで、破産ではなく特別清算で解散するといった戦略をとることができます。
また、従業員の移籍を行いやすい面があるのも、新設分割のメリットです。吸収分割では、分割した事業の従業員は既存の会社へ移籍することになるので、風土や理念が合わず退職してしまうケースがあります。
一方で、新設会社はまだ風土や理念といったものがないので、移籍先の会社の風土や理念に合わせる必要がありません。
【新設分割のメリット】
- 再生型M&Aに利用しやすい
- 従業員の移籍をスムーズに行いやすい
新設分割のデメリット
新設分割は新しく会社を設立するため、会社の数が増えて組織が複雑になるデメリットがあります。組織が複雑になることで、経営の非効率化やコストの増大が起こらないか注意しておく必要があります。
また、新設した会社は非上場なため、対価として受け取った株式の換金性が低いというデメリットもあります。
また、新設会社はもともとの分割会社より小規模なことが多いため、移籍する従業員は大企業から中小企業に転職させられたと感じることもあり、モチベーション低下を招く可能性も考えられます。
【新設分割のデメリット】
- 新会社を設立するので組織が複雑になる
- 対価を現金化しにくい場合がある
- 従業員のモチベーション低下の可能性
新設分割と吸収分割との大きな違い
新設分割と吸収分割の大きな違いは、事業を譲り受ける会社(承継する側の会社)が新設された会社か既存の会社かという点です。
手続きやメリット・デメリットの違いもありますが、これらはつまるところ承継する側の会社が新設であるか既存かの違いからくるものだといえます。
3. 吸収分割と事業譲渡の違い
事業譲渡は吸収分割や新設分割とは全く違うスキームですが、事業単位で譲渡・承継できる点で両者は似ている面をもっています。
事業譲渡を検討していたものの、実は吸収分割のほうが有効である場合やその逆のケースも考えられるので、吸収分割や新設分割を検討する際は、事業譲渡の可能性も平行して考えていく視点も大切です。
この章では、事業譲渡の目的やメリット・デメリット、吸収分割との違いを解説していきます。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、ある事業に関わる事業資産を、別な会社へ個別に売却する取引のことです。吸収分割・新設分割では基本的に株式を対価としますが、事業譲渡では対価は現金となります。
吸収分割や新設分割はいわゆる包括承継であるため、事業に関する資産・負債・権利・義務を一括で承継します。しかし、事業譲渡はあくまで個別の資産の売買であるため包括的な承継は行われないのが特徴です。
事業譲渡は吸収合併や新設合併の代替手段として使うこともできますが、株式を持たない個人事業の譲渡といった小規模なM&Aでも多用されています。
事業譲渡の目的
事業譲渡は、不採算事業の切り離しや資金獲得を目的として行われることが多いスキームです。組織再編手法としても使うことができますが、吸収分割と違って包括承継ではないため、手続き面などでデメリットが大きくなることもあります。
小規模な個人事業や中小企業では、廃業の回避や事業承継の目的で事業譲渡を行うケースが多くみられます。
特に、近年は親族に事業承継できないケースが増えているため、代替手段としてM&Aによる事業譲渡を行う事例が多くなっています。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡は吸収合併や新設合併と違って包括承継ではないので、その違いによるメリット・デメリットを把握しておくことが重要です。
事業譲渡のメリット
吸収合併や新設合併は組織再編手法なので、主に大企業が利用することを想定していますが、事業譲渡は中小企業や個人事業主など、小規模な事業体でも利用できるメリットがあります。
また、中小企業や個人事業主がM&Aで事業譲渡を行うことで、後継者問題を解決できるのもメリットの一つです。
簿外債務などのリスクを抑えられるのも、事業譲渡のメリットです。吸収合併や新設合併は包括承継なので、簿外債務があった場合もそのまま引き継いでしまいますが、事業譲渡なら引き継ぐ資産を選べるので、簿外債務の引き継ぎを拒否することができます。
ただし、簿外債務は成約前に必ず全てを発見できるわけではないので、事業譲渡を使ったからといってリスクをゼロにできるわけではありません。
また、簿外債務の引き継ぎをするかどうかはあくまで分割会社と承継会社の交渉で決まるので、承継会社の都合だけで簿外債務を拒否できるわけではありません。
【事業譲渡のメリット】
- 中小企業や個人事業主でも利用できる
- 簿外債務などを引き継ぐリスクが少ない
- 後継者問題の解決に利用できる
事業譲渡のデメリット
事業譲渡は競業避止義務があるのが、デメリットのひとつです。競業避止義務とは、譲渡した事業と似た事業を一定期間行えない制限です。
事業譲渡の競業避止義務は20年と非常に長いので、場合によっては個別交渉で期間を短くしてもらうなどの対策をとる必要もあります。
事業譲渡は包括承継ではないので、資産や負債、権利や許認可などを個別に契約して引き継がなければならないのも、デメリットです。
許認可は承継会社で新たに取り直す必要があり、従業員も譲渡会社で一旦解雇したうえで、承継会社で新たに雇用契約を結ぶ必要があります。
また、雇用契約を結びなおすと勤続年数がリセットされるので、退職金の額が減らないように配慮しなければならないといった細かい問題点もあります。
【事業譲渡のデメリット】
- 競業避止義務がある
- 個別に資産・負債を引き継がなければならない
事業譲渡と吸収分割との大きな違い
事業譲渡と吸収分割との大きな違いは、特定承継(個々に承継する)か包括承継かという点です。
事業譲渡では資産・負債・権利・義務を個別に承継して、どれを承継するかは譲渡企業と譲受企業が交渉して決めます。
一方で、吸収分割は包括承継であるため、分割する事業に関する資産・負債・権利・義務は全て承継会社に承継され、特定の負債や義務だけを拒否することはできません。
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5. まとめ
会社分割は吸収分割と新設分割があり、さらに分社型と分割型とに分けられます。事業譲渡は吸収合併と似た部分がありますが、事業資産を個別に承継する点が吸収合併とは異なります。
吸収合併・新設合併・事業譲渡の違いを把握して最適なスキームを選択することが重要であるため、検討する際はM&A仲介会社などの専門家に相談することをおすすめします。
【吸収分割のケース】
- 分社型吸収分割
- 分割型吸収分割
【吸収分割のメリット】
- 中核事業の効率化
- 不要な事業の切り離し
- 組織の整理
- 株主の意見の整理
【吸収分割のデメリット】
- スケールメリットの減少
- 優秀な人材が流出する可能性
【新設分割のメリット】
- 再生型M&Aに利用しやすい
- 従業員の移籍をスムーズに行いやすい
【新設分割のデメリット】
- 新会社を設立するので組織が複雑になる
- 対価を現金化しにくい場合がある
- 従業員のモチベーション低下の可能性
【事業譲渡のメリット】
- 中小企業や個人事業主でも利用できる
- 簿外債務などを引き継ぐリスクが少ない
- 後継者問題の解決に利用できる
【事業譲渡のデメリット】
- 競業避止義務がある
- 個別に資産・負債を引き継がなければならない