2019年08月23日公開
2020年12月09日更新
事業譲渡とは?事業譲渡のメリットと成功のポイント
事業譲渡とは、自社の展開する事業を第三者である企業に譲渡することをさします。譲渡しない資産を選択して自社に残すこともできるので、選択と集中による組織再編がしやすくなります。信頼できるM&A仲介会社に相談した上で、事業譲渡を成功させましょう。
目次
1. 事業譲渡とは何か
事業譲渡とは、会社の事業を第三者の企業に譲渡するM&A手法をさします。ほとんどの場合、事業を売却という形で譲渡するので、売り手は対価として現金や株式を受け取ることが可能です。
事業譲渡なら、手放したい事業だけを売ることができるので、事業整理や組織再編に役立つでしょう。ここからは事業承継の基礎的知識に加え、会社譲渡、会社分割との違いを解説します。
会社譲渡との違い
事業譲渡と会社譲渡は、譲渡の対象に違いがあります。事業譲渡で手放すのは事業ですが、会社譲渡で手放すのは会社全てです。
事業譲渡の場合、特定の事業を売却しても会社の経営権や商号は変わりません。一方会社譲渡では会社の経営権が譲渡されるので、経営者や会社組織は大きく変化します。
会社の経営権を手放したくない方は、会社譲渡ではなく事業譲渡で経営改善を目指しましょう。
会社分割との違い
事業譲渡と会社分割では、事業を譲渡するかどうかという点で違いがあります。そもそも会社分割とは、一つの会社を複数に分割するM&A手法です。
事業譲渡では事業を売る側と買う側の2社を必要としますが、会社分割は第三者の介入が不要なため、自社内で手続きを完了できます。
会社分割は単に会社を複数に分ける手法ですので、売買行為が発生しないのです。
事業を手放して譲渡益を得たい方は事業譲渡、組織再編のため会社の事業を整理したい方は会社分割を選ぶと良いでしょう。
2. 中小企業が事業譲渡を行うメリット
中小企業が事業譲渡を行うメリットは、以下のとおりです。
- 売却で得た資金を別の事業に生かせる
- 利益の出にくい事業に投資する必要がなくなる
- 経営負担の少ない事業だけを残せる
- 会社自体を残せる
- 負債があっても引受先を見つけやすい
「事業譲渡やM&Aは大手企業だけがするもの」と考えている方は少なくありません。しかし最近では中小企業が事業譲渡で組織再編を行う事例が増えてきています。
「採算の取れない事業がある」「投資額が大きくなりすぎて事業継続が難しい」とお悩みの方は、事業譲渡のメリットを確認してください。
①売却で得た資金を別の事業に生かせる
事業を売却することで得た資金は、別の事業への投資に回すことが可能です。
事業を譲渡すれば、数百万~数千万円のまとまった売却益が得られます。事業譲渡で得た資金を将来有望な事業に生かせば、さらなる成長も見えてくるでしょう。
採算が取れないからといって事業を廃業すれば、利益を得るだけでなく他事業を伸ばすチャンスも失ってしまいます。
②利益の出にくい事業に投資する必要がなくなる
事業売却で、継続の難しい事業を売れば効率的なリソース分配が可能になります。
事業存続のため、利益の出にくい事業に投資し続けることは会社にとって大きな負担です。先の見えないリソース投下を続けていれば、会社全体の業績に大きな悪影響が出る可能性もあります。
しかし事業譲渡でそのような事業を売却すれば、採算の取れる有望な事業にリソースを割くことが可能です。
経営効率化のためにも、事業の採算を改めて見直し適切なリソース配分を行うことは重要だといえます。
③経営負担の少ない事業だけを残せる
事業譲渡なら、負担の少ない事業だけを残してリタイアすることも可能です。
経営者の高齢化が進む中、経営からのリタイア、事業承継については早めに考えていく必要があります。しかし事業承継をすることで収入源がなくなることに、不安を感じる方は少なくありません。
そこで引退後の生活資金を確保するため、事業譲渡で不動産賃貸業など経営負担の少ない事業だけを会社に残す経営者が増加しています。
「事業承継をしたいが、収入源が全て消えるのは不安」という方は、負担の少ない事業以外を売却するのも有効です。
④会社自体を残せる
事業譲渡で手放すのは特定の事業だけなので、会社の経営権を維持することが可能です。
「経営に悩んでいるが、会社を売ることには抵抗がある」「会社を売るとなると従業員からの反発が不安」などと悩む経営者は少なくありません。事業譲渡なら利益の出にくい事業だけを売り、会社を残せるので社内でトラブルが起きる可能性は会社譲渡に比べて低いです。
また事業を売却した後もそのまま会社経営を続けられるので、「せっかく育ててきた会社を売るのは避けたい」という方に適しています。
⑤負債があっても引受先を見つけやすい
事業譲渡では譲渡したい事業を選んで譲渡できますが、株式譲渡では会社全体が売却対象で負債も引き継ぐので、引受先がためらうケースがあります。
そのため、株式譲渡では困難でも事業譲渡なら譲渡が可能なケースもあるというメリットが存在します。
以上が、事業譲渡のメリットでした。「売上の伸びない事業だけを売りたい」などと考える経営者は、事業譲渡を活用しましょう。
3. 中小企業でも事業譲渡はできる!
事業規模の大きくない会社であっても、事業譲渡で組織再編を行うことはできます。なぜなら現在M&A市場には、積極的に事業を買いたいと考える買い手が多くいるからです。
買い手が事業譲受を行うメリットは、以下のとおりです。
- 引き受ける資産を選べる
- 低コストで事業拡大できる
- 新規事業に参入できる
- 債務を受け取る必要がない
- 人材不足を解消できる
- 売り手の抱える顧客を獲得できる
譲渡する事業の範囲を交渉で決められる事業譲渡なら、買い手は「債務は引き受けず、必要な人材だけもらう」「自社事業に必要な設備と取引ルートだけもらう」といった選択ができます。
もちろん売り手との合意が必要ですが、自社の課題に合わせて自由に事業の売買ができる事業譲受は買い手にとって魅力的です。そのため事業の規模が小さい会社でも、利害の一致する買い手さえいれば事業譲渡を行うことは十分可能です。
人材、設備、ノウハウなどどれか一つでも強みがあれば、交渉の余地があるでしょう。事業をつぶすのではなく、まずは前向きに買い手探しをしてみましょう。
次は事業譲渡で得られる売却益の相場について紹介します。「ここまで育ててきた事業を少しでも高く売却したい」という方はぜひ相場をチェックしてください。
4. 事業譲渡で得られる譲渡益の相場
事業譲渡で得られる売却益の相場は、以下のように計算できます。
- 事業時価純資産+営業権
事業時価純資産とは、譲渡する事業が持つ現在の価値です。事業の純資産から債務などを引き、計算するのが基本的な計算方法となっています。
そして営業権は、事業が生み出す利益の2~3年分として計算される「事業の将来性」です。損益計算書に記載される利益ではなく、役員報酬や地代家賃、生命保険の掛金などさまざまな要素を調整して最終的な営業権が算出されます。
業界や買い手の考え方によっては、営業権を多めに見積もるケース、少なめに見積もるケースがあるので必ず専門家の意見を聞きましょう。
事業の規模が小さくても、将来有望なIT・ソフトウェア業界などでは営業権が利益5年分で計算されることもあります。事業時価純資産と合わせ事業の正しい価値を知るため、まずはM&A仲介会社に相談するのがおすすめです。
次は事業譲渡を実行する流れを解説するので、ぜひご覧ください。
5. 事業譲渡を実行する流れ
中小企業が事業譲渡を行う流れは、以下のとおりです。
- 取締役会で事業譲渡の承認を得る
- M&A仲介会社に相談する
- 買い手探しをする
- 経営者面談を行う
- 基本合意を行う
- デューデリジェンスに協力する
- 事業譲渡契約を締結する
- 株主への通知を行う
- 株主総会で特別決議を行う
- 名義変更手続きを行う
全10ステップで流れを押さえ、今後のM&A・事業承継戦略に生かしましょう。
①取締役会で事業譲渡の承認を得る
まずは取締役会で事業譲渡の承認を得ましょう。
事業譲渡を行うには、取締役会の承認が必要です。取締役会が設置されている会社の場合、取締役の過半数の賛成で承認となります。
取締役会の設置がない会社では、2人以上の取締役のうち過半数が事業譲渡に賛成することが必要です。
②M&A仲介会社に相談する
事業譲渡の承認を受けたら、M&A仲介会社に相談しましょう。M&A仲介会社は、事業承継・M&Aに関する知識を持つプロフェッショナルです。
もちろん事業譲渡についても相談できるので、譲渡希望価格や要望、買い手に希望する条件などを伝えましょう。
「中小企業の事業譲渡の実績がある専門家に相談したい」とお考えの際は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。事業譲渡・事業承継に精通したM&Aアドバイザーが親身になって案件をフルサポートいたします。
無料相談を行っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
③買い手探しをする
次はM&A仲介会社をつうじ、買い手探しを行います。M&A仲介会社のほとんどが売り手に代わり、最適な買い手を見つけてくれるので特別な準備は不要です。
しかしM&A仲介会社が提示してきた買い手をチェックし、交渉に進むかどうかを判断する必要があります。専門家とも相談しつつ、会社の経営状況に適した買い手を選びましょう。
④経営者面談を行う
買い手候補が決まったら、経営者面談を行います。経営者面談では、買い手企業の経営陣と直接話し、譲渡価格や譲渡する事業の範囲を細かく決めなければいけません。
事業譲渡の範囲、売却価格は買い手との交渉次第で大きく変わります。絶対に譲渡したいもの、または譲渡したくないものがあれば粘り強く交渉し希望をかなえましょう。
交渉の場には、M&A仲介会社のアドバイザーが同席してくれます。後悔のないよう、アドバイザーの意見を聞きつつ慎重に交渉を進めることが大切です。
⑤基本合意を行う
交渉がまとまったら、基本合意を行いましょう。基本合意とは、譲渡金額、譲渡範囲などM&Aの基本的な内容について合意が取れたとき、売り手と買い手が内容を確認するために文章を作ることです。
事業譲渡で基本合意を行う際には、基本合意書が必要です。基本合意書には下記のことなどについて書かれています。
- 取引内容
- 譲渡金額
- 今後のスケジュール
- 秘密保持契約
- 独占交渉権
独占交渉権について同意した場合、基本合意書を交わした相手以外とは事業譲渡交渉ができなくなるので注意が必要です。
⑥デューデリジェンスに協力する
基本合意が交わされた後は、買い手のデューデリジェンスに協力します。
デューデリジェンスとは、買い手が売り手企業の将来性・将来考えられるリスクなどについて税務・法務などの観点から調査を行うことです。デューデリジェンスでは、売り手の申告にうそがないか、隠れて借金をしていないかが重点的にチェックされます。
売り手は事業譲渡を円滑に進めるため、最大限買い手のデューデリジェンスに協力しなければいけません。買い手との信頼関係を作るためにも、M&A仲介会社のアドバイスのもと立ち合いや資料作成を行いましょう。
⑦事業譲渡契約を締結する
デューデリジェンスで問題が発生しなければ、事業譲渡契約の締結に移ります。
デューデリジェンスの結果を受け最終的な条件交渉を行った後に作成されるのが、事業譲渡契約書です。事業譲渡契約書には、事業譲渡の目的や譲渡財産の内訳などが記載されます。
M&A仲介会社が書面作りを代行してくれることが多いです。条件に問題がないか慎重に確認して、サインをしましょう。
⑧株主への通知を行う
事業譲渡契約が結ばれたら、事業譲渡を行う旨を株主に伝えましょう。
事業譲渡に反対する株主が株式買取り請求権を行使できるよう、事業譲渡の効力が発生する日の20日前までに通知を行います。
事業譲渡で会社がなくなるわけではありませんが、会社組織が変化することで株主に大きな影響が出る可能性は少なくありません。
株主を守るため、できるだけ余裕を持って通知することが大切です。
⑨株主総会で特別決議を行う
事業の全部または重要な一部を事業譲渡で譲渡する場合には、株主総会の特別決議が必要です。事業譲渡の効力発生日の前日までに、株主総会による承認を得ていなければ事業譲渡はできません。
ただし事業の重要な一部を譲渡する場合、譲渡する資産の帳簿価額が総資産額の20%以下となっている場合には、特別決議は不要です。
特別決議が必要かどうかわからない場合は、M&A仲介会社のアドバイザーに聞いてみましょう。
⑩名義変更手続きを行う
特別決議が行われた後、事業譲渡の効力発生日を迎えることで事業譲渡は完了です。しかし譲渡する資産の内容によっては、名義変更手続きや認許可の手続きが必要になることもあります。
例えば車両や設備、不動産の名義変更手続き、従業員を引き継ぐ場合は新たな雇用契約が必要です。また、行政の認許可を受けて事業を行う業種の場合、会社組織が変わるため変更手続きを行わなければいけません。
アドバイザーと相談しつつ、必要な手続きを計画的に進めていきましょう。
事業譲渡の成立までには、少なくとも半年程度の時間がかかります。ここまで解説した流れをミスなく進めるのは非常に難しいので、事業譲渡は必ず専門家に相談して進めましょう。
次は、中小企業が事業譲渡で会社の課題を解決するポイントについて解説します。事業譲渡に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
6. 事業譲渡を成功に導くため意識すべきポイント
事業譲渡を成功させるためのポイントは、以下のとおりです。
- 譲渡する事業の範囲を早めに決める
- 買い手に高い条件を付けない
- 事業譲渡では競業避止義務に注意する
- 信頼できる専門家を選ぶ
①譲渡する事業の範囲を早めに決める
譲渡する事業の範囲を決めておくことで、スムーズな譲渡が可能になります。
事業譲渡では、買い手と交渉することで譲渡対象となる資産を決めるのが一般的です。事業譲渡を行う際は、最低限以下のポイントについて社内で話し合っておきましょう。
- 従業員を買い手に渡すのか
- 残しておきたい設備はあるか
- 買い手との交渉でどこまで譲歩できるか
事業譲渡で最も時間がかかるといわれているのが、譲渡範囲の交渉です。スピーディーに事業譲渡を成立させるため、渡したい資産、渡したくない資産を事前に決めておくことをおすすめします。
②買い手に高い条件を付けない
現在多くの業界で売り手市場が続いていますが、一方的に売り手有利でM&Aを進められるわけではありません。特に細かい条件交渉が必要な事業譲渡では、買い手との交渉が決裂しM&Aに失敗してしまうケースも少なからずあります。
譲渡したい事業の範囲や、売却価格について希望を伝えるのは良いですが、買い手の都合を考えず交渉を進めるのは避けましょう。
事業譲渡の相手とは、今後も別の事業で取引を行う可能性もあります。事業譲渡に詳しい専門家と協力しつつ、買い手とも良い関係が作れるよう意識することが大切です。
③事業譲渡では競業避止義務に注意する
事業譲渡には、会社法の規定により売り手に対し「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」が課されます。
競業避止義務とは、当事者間の特別な規定がない限り、事業の売り手は同一市町村および隣接市町村の区域内において同一の事業を行うことができないとする規定です。競業避止義務は、事業譲渡の日から20年間課されます。
この義務は、事業譲受をした買い手と同一事業での競争が起こるのを避ける目的で作られました。
しかし買い手との特約により、競業避止義務の期間を拡大・縮小することが可能です。また当事者間が納得していれば、競業避止義務自体をなくせます。
通常の事業譲渡ではこの競業避止義務が20年間課されるので、同一地区で同じ事業をしないよう意識しておかなければいけません。
④信頼できる専門家を選ぶ
事業譲渡の手続きを行う際は、信頼できる専門家への相談が欠かせません。
M&Aや事業承継について相談できる機関は多数ありますが、高額な手数料を取るために成約を先延ばしにするところもあります。
大きな経営判断である事業譲渡を無事成功させるためにも、自社に合った適切な相談先を選びましょう。M&A・事業承継に関する相談先については以下の記事をチェックしてください。
また、中小企業に強いM&A仲介会社は以下の記事で解説しています。
7. 事業譲渡・事業承継のことはM&A総合研究所にお任せください!
事業譲渡・事業承継のことでお悩みならぜひM&A総合研究所へお問い合わせください。M&A総合研究所では、これからの経営を見据えた事業譲渡に関するサポートを行っております。
また、「今後の事業承継を見据えて事業譲渡を検討したい」というご相談も、積極的に受け付けております。事業譲渡に詳しいM&Aアドバイザーがお悩みに答えますので、M&Aや事業承継について詳しくない方も安心してご相談いただけます。
M&A総合研究所では無料相談を行っておりますので、「事業譲渡をしたい」「まずは話だけ聞きたい」という方はお気軽にお問い合わせください。
8. まとめ
中小企業であっても、事業譲渡で会社の経営を改善できます。事業譲渡なら、会社の特定の事業だけを別の会社に譲渡できるので経営改善に役立つのです。
M&A総合研究所では、事業譲渡に詳しいプロフェッショナルが経営者様のご相談をお待ちしております。「どうしても特定の事業で利益が出せない」「まとまった資金が欲しい」とお悩みの方は、ぜひお問い合わせください。