2019年09月07日公開
2020年05月27日更新
事業承継税制とは?制度の内容や要件、利用の注意点を分かりやすく解説
贈与税、相続税が実質免除となる事業承継税制。会社の引き継ぎにあたって制度を利用したいと考えている方は多いはずです。この記事では事業承継税制の内容と要件、特例等について解説していくので事業承継をお考えの方はぜひチェックしてください。
目次
1. 事業承継税制なら税金の支払いが猶予される!
事業承継税制とは、中小企業を対象に事業承継の際に発生する贈与税、相続税の支払いを猶予してくれる制度のことです。
事業承継税制を使えば、金銭的な理由で事業承継が難しい方でも後継者に会社を引き継いでもらうことができます。さらに現在の制度では、M&Aによる事業承継でも事業承継税制の適用が可能です。
「事業承継をしたいけれど、税金が高すぎる」とお悩みの方はまず事業承継税制の基本を知っておきましょう。
1-1.事業承継税制の内容
事業承継税制(特例措置)を利用すれば、最大で100%の贈与税・相続税の支払いが猶予されます。税金が高く、後継者に事業承継を拒否されていたという方は、ぜひ活用したい制度だと言えるでしょう。
事業承継税制を利用しなかった場合に発生する贈与税、相続税の額は以下の表の通りです。会社の資産と照らし合わせ、簡単に税額のシミュレーションをしておきましょう。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 控除なし |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税の基本的な税率は、以下の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 控除なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
事業承継税制を利用しない場合、表から分かる通り非常に大きな額の税金を負担しなければいけません。
もし事業承継で1億円の株式を贈与する場合、発生する税金は以下の通り計算できます。
- (1億円-640万円)×0.55=5,148万
計算式から分かる通り約5,100万円もの負担はとても大きなものなので、多くの中小企業にとっては厳しいです。
しかし、現在実施されている事業承継税制の特例を使えば、この約5,100万円の支払いが全額猶予されます。小規模な会社の場合であっても数百万~数千万円超の税金支払いを猶予してもらえるので、事業承継を行う際には、積極的に制度の利用を考えてみるべきでしょう。
また、事業承継税制による支払い猶予は1回目の事業承継に限ったものではありません。事業承継税制で会社を存続させてさらに次の後継者へと事業を引き継げば、猶予ではなく、税金の支払いは免除となります。
税金の支払い額が大きく、事業承継をためらっていたという経営者は少なくありません。しかし事業承継税制の特例を使えば負担を減らしたまま事業承継が実現できるので、専門家に相談しぜひ利用してみましょう。
1-2.事業承継税制ができた背景
事業承継税制ができたのは、事業承継を選べず廃業する中小企業が多いこと、経営者の平均年齢が60代であり高齢化が進んでいることにあります。
しかし利用までの手続きが非常に複雑なうえ、猶予を受けるための要件が難しいことから利用企業は少ない状況にありました。
平成30年度の改正までの間、事業承継税制利用の申請は年間約400件(中小企業庁調べ)となっています。全国で見ると毎年30,000件の企業が休廃業している(東京商工リサーチ「2016「休廃業・解散企業」動向調査」より)していることを考えれば、非常に少ないと言えるでしょう。
そこで政府は新たに、事業承継税制を改正しより多くの企業が事業承継税制を利用できるよう制度を整えました。改正後に、新しく登場した「特例措置」です。
特例措置では、猶予額がさらに増加したほか対象となる企業も増えました。次はこれまで実施されてきた「一般措置」と平成30年度に新しく登場した特例措置の違いを解説していきます。
2. 改正前の事業承継税制と特例措置の違い
事業承継税制は、平成30年度に改正により大きく制度が変更されました。改正前と、改正後に適用される特例措置で異なる点は、以下の通りです。
- 相続税・贈与税が100%猶予となった
- 後継者が複数いても適用が可能になった
- 5年間の雇用維持要件が努力目標になった
これまでの措置と、新しく改正された特例措置では制度面で大きな違いがあります。特例措置は2028年までの期間限定措置ですが、どんな違いがあるのか把握して事業承継計画づくりに活かしましょう。
違い1.相続税・贈与税が100%猶予となった
事業承継税制の特例措置では、新たに相続税・贈与税が100%猶予となりました。
これまでの事業承継税制では、相続税・贈与税は最大で80%までしか猶予されず、猶予対象となる株式も発行済み株式総数の2/3までにとどまっていました。
しかし平成30年度の改正で生まれた特例措置では、相続税・贈与税が100%猶予となるのでさらに事業承継がしやすくなります。
違い2.後継者が複数いても適用が可能になった
新しい事業承継税制の特例措置では、後継者が複数いる場合でも制度の適用が可能になりました。これまでの事業承継税制で適用の対象となっていたのは、経営者1人から後継者1人に対する事業承継のみでした。
しかしこれでは複数の息子や娘に事業承継するケースに対応できず、事業承継税制を使える企業が少なくなってしまうという問題があります。
そのため特例措置では、経営者1人が複数人に事業承継する場合も制度適用の対象としました。ただし自社株を譲渡しての事業承継の場合、適用の対象となるのは最大で3人の後継者までです。
違い3.5年間の雇用維持要件が努力目標になった
事業承継税制の特例措置では、5年間の雇用維持要件が目標に切り替わりました。これまでの制度で実施されてきた「雇用維持要件」とは、事業承継税制適用から5年間は従業員8割の雇用を維持しなければならないという条件でした。
この要件が守れなければ、猶予してもらった税金を払い戻す必要があるので、企業にとっては大きな注意点です。しかし新しく施行された特例措置では、雇用維持要件が努力目標となり、もし雇用を5年間維持できなかった場合でも猶予を継続してもらえます。
雇用維持要件が緩和されたことで、事業承継税制を利用したいという企業はさらに増えるでしょう。
以上が、これまでの事業承継税制(一般措置)と、平成30年度から2028年まで適用される特例措置の違いでした。
平成30年度の改正で導入された特例措置については、以下の記事で更に詳しく解説しています。2028年までに事業承継を考えている方は、ぜひこちらの記事も読んでみてください。
せっかく事業承継税制を利用するなら、猶予額が大きく、対象となる会社も多い特例措置を選択すべきです。
次は、事業承継税制(特例措置)を受けるための会社、経営者、後継者、担保に関する細かい要件を解説していきます。事業承継税制を確実に利用したい方は、まず自分の会社が要件に合っているか確認してください。
3. 事業承継税制の適用要件
事業承継税制を利用するためには、以下4つの要件それぞれに該当しなければなりません。
- 会社
- 先代経営者
- 後継者
- 担保
現在、特例措置の場合も一般措置の場合も要件に大きな違いはありませんが、自分の会社が事業承継税を利用できるかどうかチェックしてみましょう。
要件1.会社に関する要件
まずは、会社に関する要件を見ていきましょう。
贈与で事業承継する場合も、相続で事業承継する場合も、以下の会社は適用対象外となります。
- 上場企業
- 風俗営業会社
- 資産管理会社
- 総収入金額がゼロの会社
- 従業員がいない会社
不動産賃貸業などを行っている会社の場合、制度の適用範囲外となってしまう場合があるので、事業承継の専門家に相談して承継方法を考える必要があるでしょう。
要件2.先代経営者に関する要件
先代経営者に関する要件は、一般的な会社活動をしていれば満たせるものが多いです。しかし適用対象外とならないよう、一度自分の会社の状況を見直してみましょう。
ここからは相続の場合、贈与の場合に分けて先代経営者に関する要件を解説します。
相続の場合
相続の場合対象となるのは、先代経営者が会社の代表権を有しており、相続開始前に議決権数の過半数を所持している場合です。また、後継者を除いて最も多くの議決権数を有していることも要件の一つとなります。
事業承継税制の認定を始めて受ける場合、以上の要件をすべて満たす必要があります。しかし相続前、会社がすでに一度事業承継税制の要件を満たしていた場合、必ずしも先代経営者が要件すべてを満たす必要はありません。
贈与の場合
贈与の場合は、相続の場合に加え「贈与時に会社の代表権を有していないこと」が適用の条件になります。
先代経営者が株式を半分以上保有していた場合、以上の条件はほぼ自然に満たせますが、不安がある場合には、専門家のアドバイスを受け対処法を考えましょう。
要件3.後継者に関する要件
後継者は、贈与、相続の場合、さらに後継者の人数によって異なります。
要件を確認していきましょう。
相続の場合
相続の場合は以下の通りです。
- 相続開始の翌日から5ヶ月以内に会社の代表権を所持
- 相続開始時、後継者およびその親族などを合わせ総議決権数の50%超を所持
- 後継者とその親族などの中で後継者が最も多くの議決権数を所持(後継者が1人の場合)
- 総議決権数の10%以上を有し、後継者の親族などを合わせ最も多くの議決権数を所持(後継者は2人または3人の場合)
- 相続開始直前に会社の役員であること
相続開始前に後継者が役員でいなければいけないという要件は、見過ごされてしまうケースが多いです。事業承継税制を使う場合、早く後継者を決めて役員に就けておく必要があるでしょう。
要件が複雑で不安という方は、事業承継の専門家に一度相談してください。
贈与の場合
贈与の場合は以下の通りです。
- 代表権を所持、かつ成人している
- 役員就任から最低3年は経っている
- 50%超の議決権数を所持(後継者・親族など含む)
- 後継者が最も多くの議決権数を所持(後継者が1人の場合、後継者・親族など含む)
- 総議決権数の10%以上かつ、最も多くの議決権数を所持(後継者は2人または3人の場合、後継者・親族など含む)
この中で注意しておきたいのが、後継者が20歳以上でなければいけないという点です。後継者がまだ20歳未満の場合、現時点で制度は使えないのでM&Aなど別の承継方法を考えるか、後継者が成人するまで待ちましょう。
要件4.担保に関する要件
事業承継税制では、もし猶予が取り消しになった場合に備え担保を用意しておかなければいけません。担保として有効なのが、国債や地方債などの債権、株式などの有価証券、不動産です。
また、猶予額に見合った支払い能力を持つ保証人を用意するという手もあります。しかしこうした担保を用意できない場合、先代経営者から引き継いだ株式すべてを担保にしなければいけません。
事業承継税制での猶予がストップされれば自社株式を失う可能性があるので資産の少ない会社の場合、制度の利用は慎重に行いましょう。
以上が、事業承継税制の適用要件でした。事業承継税制は非常に便利な制度ですが、要件を1つでも満たせなければ制度の対象外となってしまいます。事業承継税制に申し込むときは必ず専門家にチェックをしてもらい、要件を満たす会社となっているか確認しましょう。
次は、事業承継税制の特例措置を利用する期限について解説していきます。
4. 事業承継税制を使うなら2023年までに計画を提出しよう
事業承継税制を使うなら、2023年までに特例承継計画を提出し2028年までに承継を行い特例措置を使いましょう。特例措置は、これまでの措置と比べ猶予される税額が増えるため、承継の金銭的な悩みを解決できます。
「事業承継税制を利用したいけれどまだ承継計画を作っていない」という経営者の方は早めに動き出すことが大切です。
特例措置では、適用後の期限については一般措置の場合と同じですが、「適用から5年間は雇用を8割維持」という条件が必須ではなくなったため、継続して猶予を受けやすくなりました。
細かい手続きの方法は後述しますが、事業承継を考えている方は今のうちに特例措置の利用に向けて動き出しましょう。次は、事業承継税制の利用で猶予される税金が「免除」となる要件をご紹介していきます。
5. 納税が「免除」になる要件
贈与税・相続税が最大100%猶予となる事業承継税制ですが、最終的に税金の支払いを免除してもらうことも可能です。せっかく制度を利用するなら、税金の支払いを免除してもらいたいという方は多いでしょう。
納税が免除される要件は、以下の通りです。
- 後継者が次の後継者に対し、事業承継税制を使って事業を承継した場合
- 会社が事実上の倒産状態になった場合
納税が免除になるからといって、会社が倒産状態になるのはなるべく避けたいところです。そのため税金を免除してもらう方法として目指すべきは、後継者がさらに次の後継者に対し事業承継税制を利用するケースだと言えるでしょう。
事業承継税制を使う際は、さらに次の後継者に事業を引き継ぐことを念頭において経営を進めなければいけません。
次は、事業承継税制適用までの基本的な流れを解説します。税金の猶予・免除を目指す方はぜひチェックしてください。
6. 事業承継税制適用までの流れ
特例措置の手続きは、一般措置とは異なります。特例措置を受けるには、都道府県知事からの認定を受けるまでに特例承継計画を作成しなければいけません。
ここからは特例承継計画も含め適用に必要な手続きを解説していくので、ぜひ参考にしてください。
流れ1.特例承継計画の策定
特例措置を受けるには、特例承継計画の策定が必要です。
特例承継計画の内容としては、以下のようなものがあります。
- 承継会社の後継者
- 承継時までの経営見直し
詳しい承継計画作りに関しては、税務や会計の専門知識が必須です。まずは税理士などの専門家に相談し、早めに準備を進めましょう。
そして承継計画ができたら、認定支援機関に提出し所見を記載してもらいます。そして無事に計画が有効だとされれば、都道府県庁に提出します。
現在の特例措置を適用してもらうには、2023年までの提出が必要です。早めに計画を作り、提出してください。
流れ2.贈与・承継の実行
承継計画の提出後は、作った計画に沿って贈与・承継を行います。
都道府県知事の認定申請は、贈与・承継が済んだ後に行うステップですので、間違えないようにしましょう。
流れ3.都道府県知事への認定申請
無事に贈与・承継を終えたら、都道府県知事に対し事業承継税制の認定申請を行います。
申請期限は、贈与をした年の翌年1月15日まで、または相続開始後8カ月以内となっています。
事業承継税制の適用を受けるため、必ず期限内に申請を行いましょう。
流れ4.税務署への申告
都道府県知事からの認定を受けた後は、猶予を受けた旨を税務署に申告しましょう。贈与の場合に必要なものは、以下の通りです。
- 贈与税申告書等
- 認定書の写し
相続の場合に必要なものは以下の通りです。
- 相続税申告書等
- 認定書の写し
その他の書類が必要なケースもありますが、細かい記入方法などについては税務署に直接確認した方が良いでしょう。
ここまで、特例措置を受ける手続きの方法について解説しました。書類を正確に作成するため、顧問税理士などに加え事業承継税制に詳しい専門家に相談して進めるのが良いでしょう。
次は、事業承継税制の適用を受ける際に意識しておきたいことを解説していきます。事業承継税制の利用を考えている方はぜひ事前にご確認ください。
7. 事業承継税制の適用を受ける際の注意点
事業承継税制の適用を受ける際の注意点は、以下の通りです。
- 猶予が取消になるケースもある
- 対応できる専門家が非常に少ない
制度適用後に事業承継税制の要件から外れてしまうと、金銭面で大きな損害が発生する可能性もあります。事業承継税制は便利な制度ですが、利用前に注意点をしっかり確認しましょう。
注意点1.猶予が取消になるケースもある
事業承継税制があれば最大で100%の贈与税・相続税が猶予されますが、猶予が途中で取り消されるケースもあります。
猶予が取り消しになるケースは以下のようなものです。
- 後継者が退任した
- 後継者が筆頭株主ではなくなった
- 猶予を継続するために必要な書類を提出しなかった
このようなケースでは問題が発覚した時点で猶予が取り消されます。猶予がストップすれば、これまで猶予されていた税金を利子税とともに支払わなければいけません。
資金繰りの厳しい企業にとって猶予額を一気に支払うのは大きな負担になるので、制度適用後のルールについてもきちんと意識しておく必要があります。
注意点2.対応できる専門家が非常に少ない
平成30年に制度の改正が行われた後、事業承継税制への申請を行う中小企業は増加しています。
しかし制度が改正されてから長い時間が経っていないため、改正後の制度について深い知識を持っている専門家は少ない状況にあります。
自社のみで事業承継計画を作成するとなれば、多大な時間と労力を注ぎ込まなければいけません。しかし事業承継税制のことばかりに注力していると、他の業務がおろそかになってしまい資金繰りの悪化なども考えられます。
そのためまずは事業承継税制に詳しい専門家探しから始めましょう。M&A仲介会社など事業承継の専門家の多くがホームページなどで事業承継税制の解説、サポート内容の紹介を行っているのでチェックしてみてください。
8. 事業承継税制のことはM&A総合研究所まで
事業承継税制の利用についてお悩みなら、M&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、事業承継のサポートを行っており、事業承継税制など各種制度の利用方法について詳しい専門家が在籍しております。
事業承継税制に対応できる専門家は少なくありませんが、M&A総合研究所なら後継者の紹介、M&Aでの事業承継を含め事業承継の方法についてもアドバイスを行うことが可能です。
「会社を残したいけれど、どうすれば良いのか分からない」「少しでも事業承継の金銭的な負担を減らしたい」という方は、M&A総合研究所がぴったりです。節税方法なども含め、専任アドバイザーが徹底的に会社の存続をサポートいたします。
M&A総合研究所の実績や、料金体系については以下の記事でさらに詳しく解説しております。どんな専門家に相談すれば良いか分からないという方は、ぜひ一度M&A総合研究所をご検討ください。
お問い合わせは電話とWEBで24時間受け付けております。相談料は無料となっておりますので、まずはぜひご相談ください。
9. まとめ
相続税・贈与税が猶予される事業承継税制を利用するには、必要書類を準備し定められた期限内に手続きを済ませる必要があります。
事業承継税制に詳しい専門家はまだ少なく、自社のみでの対応も難しいため手続きは必ず専門家に任せなければいけません。
事業承継税制で、会社の事業承継にかかる負担を少しでも減らしましょう。