2020年09月29日公開
2020年09月29日更新
LBO(レバレッジドバイアウト)を事例付きでわかりやすく解説!【図解あり】
LBO(レバレッジドバイアウト)とは、買収側が被買収企業の企業価値を担保に金融機関から資金を借り入れて買収する手法です。本記事では、LBO(レバレッジドバイアウト)の意味やメリット・デメリット、注意点などについて解説します。
1. LBO(レバレッジドバイアウト)とは
LBO(レバレッジドバイアウト)とは、買収側が被買収企業の企業価値を担保に金融機関から資金を借り入れて買収する手法です。
金融機関から借り入れた買収資金は、買収側ではなく被買収企業が支払っていくという点が、LBO(レバレッジドバイアウト)の特徴的な部分です。
LBO(レバレッジドバイアウト)の仕組みを簡略化した図で表すと、以下のようになります。
LBOはどんな時に使われる?
LBO(レバレッジドバイアウト)は、買収側よりも規模が大きく経営状態の優良な企業を買収する際に用いられる手法です。
買収側がM&A手法を用いる理由はさまざまであり、事業規模・事業エリアの拡大や技術・ノウハウ・人材の獲得、事業承継の受け入れなど、一般的には中長期の目的達成のために行われます。
一方、LBO(レバレッジドバイアウト)は被買収企業を短期間で上場させたり企業価値を向上させたりして、大きな売却益を得るために行われるケースがほとんどです。
LBOのメリット・デメリット
LBO(レバレッジドバイアウト)にはメリットとデメリットがあり、うまくいけば買収側は大きな利益が得られる一方、失敗すると買収側と被買収企業、金融機関は大きなダメージを負うこともあります。
ここでは、LBO(レバレッジドバイアウト)のメリットとデメリットについて、くわしく解説します。
LBOのメリット
LBO(レバレッジドバイアウト)には、主に以下2つのメリットがあります。
- 資本がなくても買収ができる
- 調達資金を返済するリスクを抑える
1.資本が少なくても買収ができる
一般的なM&Aの場合、規模の大きい企業が自社よりも規模の小さい企業を買収するケースがほとんどですが、LBO(レバレッジドバイアウト)の場合は買収側よりも規模が大きい会社を買収できるメリットがあります。
LBO(レバレッジドバイアウト)は「レバレッジ」つまり、てこの原理を利用して買収を行う手法であり、LBO(レバレッジドバイアウト)の「てこ」にあたるのが、被買収企業です。
LBO(レバレッジドバイアウト)では、被買収企業の企業価値自体を担保として金融機関から買収資金を調達します。
LBO(レバレッジドバイアウト)による買収後、被買収企業の経営の仕方や経営資源の無駄などを改善し、企業価値を高めてから売却すれば、短期間で大きな利益を得ることが可能です。
2.調達資金を返済するリスクを抑える
一般的なM&Aスキームでは、調達した買収資金の返済は買収側が行います。しかし、 LBO(レバレッジドバイアウト)の場合、金融機関から受けた融資の支払いは被買収企業が行うため、買収側は基本的に債務を返済する必要がありません。
ただし、買収側は親企業としての責任があります。被買収企業の業績が思うように上がらず、返済が滞った場合は買収側が責任を問われるケースもあります。また、金融機関からは厳しいモニタリングを受けることになります。
LBOのデメリット
LBO(レバレッジドバイアウト)では、以下3つのようなデメリットを被る可能性があります。
- シナジー効果が予測より得られない可能性
- 金利コスト
- 利子がついた負債が増加する
1.シナジー効果が予測より得られない可能性
LBO(レバレッジドバイアウト)は、短期間で高い利益が得られることを想定して実行されますが、シナジー効果が予測よりも低かった場合、買収側や融資した金融機関は大きな損失を被ることになります。
そのため、金融機関や親会社は徹底した管理を行うことで損失リスクを下げようとします。しかし、被買収企業は多額の債務を抱えながらの経営になるので、債務を返済しながら高いシナジー効果を得るには、かなりの綿密な経営戦略と経営管理体制が必要になります。
2.金利コスト
金融機関は失敗した場合に高いリスクを背負うため、貸し出す資金の金利も高くなります。
金利は買収された企業が支払っていくことになりますが、高い金利も含めて支払うことになるため、支払いに圧迫されて経営難に陥るケースもあります。
金融機関はLBO(レバレッジドバイアウト)を成功させるために、被買収企業が得た収益を優先的に返済に充てるよう求めます。そのため、被買収企業は返済のために事業を続けているような状態になるケースも少なくありません。
3.利子がついた負債が増加する
LBO(レバレッジドバイアウト)では、被買収企業のほうが規模が大きく優良企業であることが多いので、買収額も大きくなります。また、買収側は確実に買収を成功させるために、相場よりも割高な株価で買収するケースがほとんどです。
さらに、被買収企業が買収代金を返済していく際は、利子も含めて返済していくことになるため、被買収企業の負担はかなり大きいものとなります。
買収された後順調に営業利益を上げて企業価値を向上させることができればよいですが、もし計画通り成長していくことができなかった場合、被買収企業は優良企業であるにもかかわらず倒産の危機を迎えることさえあります。
LBOとMBOの違い
MBO(マネジメントバイアウト)は、経営陣が自社の株式を買い集める手法を指します。上場企業は自社を上場廃止にする目的や敵対的買収を防ぐ目的などで、MBO(マネジメントバイアウト)を用いることがあります。
上場のメリットは幅広い株主から資金調達ができる点ですが、上場企業は株主の利益を最大化するために経営方針を決めなければなりません。
しかし、会社を成長させるためには、短期的に赤字を抱えてでも中長期的な投資が必要な場合もあります。
そのような場合、経営陣がMBO(マネジメントバイアウト)によって自社を上場廃止にすることで、株主に経営方針を左右されずに中長期的な投資が可能となります。
LBOとEBOとの違い
EBO(エンプロイーバイアウト)は、従業員が自社の株式を買い取る手法のことを指します。EBO(エンプロイーバイアウト)は、中小企業の事業承継などで用いられることがあります。
EBO(エンプロイーバイアウト)は、自社の企業風土や業務内容をよく理解した従業員に事業承継できるので、事業の円滑な計測が図りやすい点がメリットです。
しかし、EBO(エンプロイーバイアウト)を実行するまでに、その従業員へ経営者としての能力を身につけさせたり、ほかの従業員や取引先、主要な顧客などと関係性を構築させるなどの準備が必要です。
また、従業員がEBO(エンプロイーバイアウト)を行うには買収資金の調達が課題となります。金融機関との交渉や各種制度の利用を通して、計画的にEBO(エンプロイーバイアウト)の準備を進めておかなければなりません。
2. LBOを行う手順
本章では、LBO(レバレッジドバイアウト)は、どのような手順を踏んで進められるのでしょうか。この章では、LBO(レバレッジドバイアウト)手順について解説します。
- SPC(特別目的会社)の立ち上げ
- 金融機関から資金調達
- SPCが対象企業を買収
- SPCと対象企業の合併
1.SPC(特別目的会社)の立ち上げ
LBO(レバレッジドバイアウト)は買収側が直接買収を行うのではなく、SPC(特別目的会社)を立ち上げ、SPC(特別目的会社)を通して買収を実行します。
SPC(特別目的会社)は、被買収企業を買収するためだけに立ち上げられる会社です。そのため、SPC(特別目的会社)は、LBO(レバレッジドバイアウト)の手続きを進めていく過程で消滅することとなります。
2.金融機関から資金調達
SPC(特別目的会社)を立ち上げたら、金融機関から資金調達を行い、SPC(特別目的会社)へ資金を預けます。
金融機関はLBO(レバレッジドバイアウト)が成功すれば大きな利益が得られる一方、失敗すれば多額の損失を抱えることになります。
そのため、日本でLBO(レバレッジドバイアウト)を行う場合、金融機関は慎重かつ綿密に調査を行い、LBO(レバレッジドバイアウト)後も厳しいモニタリングを行います。
3.SPCが対象企業を買収
被買収企業の買収はSPC(特別目的会社)が行います。SPCが被買収企業の株主から株式を買い取る際は、買い取りの確率を上げるために市場価格よりも高く買い取るケースが一般的です。
そのため、最終的な買収価格は高額になりがちです。しかし、その高額な買収資金は被買収企業が支払っていくことになるため、被買収企業の負担は大きいものとなります。つまり、買収資金の返済も大きな負担を強いられることになります。
4.SPCと対象企業の合併
被買収企業に買収資金の返済を負担してもらうには、債務を被買収企業に負わせる必要があります。
そこで、SPC(特別目的会社)と被買収企業を合併することにより、SPC(特別目的会社)の債務を被買収企業に移すという方法をとります。
これによって、被買収企業が債務を返済していくLBO(レバレッジドバイアウト)の仕組みが出来上がります。
3. LBOを活用するPEファンド
PE(プライベートエクイティ)ファンドは世界中に数多く存在しますが、本章ではLBO(レバレッジドバイアウト)の活用によって利益を上げているPEファンドの一例を紹介します。
- リップルウッド
- KKR
- ベインキャピタル
- カーライル・グループ
- アドバンテッジパートナーズ
1.リップルウッド
LBO(レバレッジドバイアウト)を活用するPEファンド1件目は、アメリカのPEファンド、リップルウッドHDです。
リップルウッドが関わった主な買収案件には、日本コロムビア・新生銀行・日本テレコムなどがあります。
特に、2003年の日本テレコムの案件では、LBO(レバレッジドバイアウト)を活用して買収後ソフトバンクへ売却し、多額の利益をあげています。
2.KKR
LBO(レバレッジドバイアウト)を活用するPEファンド2件目は、アメリカの投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)です。
KKRは大規模なPEファンドで、巨額の買収をいくつも行っています。特に、1989年のRJRナビスコの買収ではLBO(レバレッジドバイアウト)によって250億ドルの巨額買収を成功させています。
3.ベインキャピタル
LBO(レバレッジドバイアウト)を活用するPEファンド3件目は、アメリカのPEファンド、ベインキャピタルです。
ベインキャピタルはグローバルに活躍しており、日本でもさまざまな有名企業に投資を行ってきました。
2014年のすかいらーく経営陣によるMBOでは、LBO(レバレッジドバイアウト)の形で買収に関わり、その後すかいらーくの再上場の際に大きな利益を獲得しています。
4.カーライル・グループ
LBO(レバレッジドバイアウト)を活用するPEファンド4件目は、アメリカのPEファンド、カーライル・グループです。
カーライル・グループは短期間による売買で利益を上げる戦略ではなく、中長期で被買収企業の企業価値を上げていく、友好的な戦略をとっています。
2019年に実施されたオリオンビールのMBOでは、LBO(レバレッジドバイアウト)の形でオリオンビール経営陣の買収を支援し、再上場に向けて企業価値の向上をサポートしています。
5.アドバンテッジパートナーズ
LBO(レバレッジドバイアウト)を活用するPEファンド5件目は、日本のPEファンドであるアドバンテッジパートナーズです。アドバンテッジパートナーズはさまざまなMBO案件に関わってきました。
特に、2007年のレックスホールディングスのMBOでは、株価操作などにより訴訟問題となり話題となりながらも、最終的には上場廃止とコロワイドへの売却に成功しています。
4. LBOが実際に活用された事例
これまで日本でもいくつものLBO(レバレッジドバイアウト)が行われてきましたが、本章では、そのなかで話題になった事例を図解とともに解説します。
- ソフトバンクのケース
- リップルウッドホールディングスのケース
- ダイセンホールディングスのケース
- ライブドアのケース
- カーライルのケース
1.ソフトバンクのケース
レバレッジドバイアウトのケース1件目は、ソフトバンクのケースです。2006年にソフトバンクは、当時企業規模の大きかったボーダフォン日本法人をイギリスボーダフォンから買収することを発表しました。
買収額は1兆7500億円という巨額であり、ソフトバンクは約1兆円近くをレバレッジドバイアウトによってまかないながら買収を行いました。
2.リップルウッドホールディングスのケース
レバレッジドバイアウトのケース2件目は、リップルウッドホールディングスのケースです。2003年、アメリカのPEファンドであるリップルウッドは、ソフトバンクモバイルの前身である日本テレコムを買収しました。
日本テレコムの買収はリップルウッドにとって大型買収であったことから、リップルウッドはレバレッジドバイアウトによって買収資金をまかなっています。
2004年にはソフトバンクが日本テレコムの株式を取得し、リップルウッドは投資に成功しました。
3.ダイセンホールディングスのケース
レバレッジドバイアウトのケース3件目は、ダイセンホールディングスのケースです。2012年にダイセンは、経営再建によって立ち直ったさとうべネックをレバレッジドバイアウトを用いて買収しました。
しかし、経営再建に成功していたはずのさとうべネックは債務の返済が滞り、たった8ヶ月で経営破綻に至っています。
さとうべネックが経営破綻に至った原因は、レバレッジドバイアウトによって投機的に売買されたためと考えられます。
4.ライブドアのケース
レバレッジドバイアウトのケース4件目は、ライブドアのケースです。2005年、ライブドアはニッポン放送の株式を買い集めました。当時、会社の規模が小さいニッポン放送が規模の大きいフジテレビの親会社であるといういびつな形になっていました。
そこに目をつけたライブドアは、日本放送を子会社化できればフジテレビも子会社化できると踏んで、レバレッジドバイアウトを活用して買収を進めていきます。
結果的に、ライブドアは粉飾決算が発覚し計画は失敗に終わりますが、粉飾決算問題がなければレバレッジドバイアウトが成功していてもおかしくない状況でした。
5.カーライルのケース
レバレッジドバイアウトのケース5件目は、カーライルのケースです。2004年、カーライル・グループはDDIポケットをレバレッジドバイアウトを用いて子会社化し、中長期の計画でDDIポケットの企業価値向上を図りました。
DDIポケットは2005年にウィルコムとして再出発を果たします。しかし、環境変化の大きさと速さにウィルコムは遅れをとり、経営が悪化していき、結果的にカーライルは立て直すことができずにウィルコムをソフトバンクへ売却しています。
5. LBOが行われた際に対象会社が覚悟するポイント
LBO(レバレッジドバイアウト)が行われた場合、買収対象会社は以下の点を覚悟しておかなければなりません。
- 多くの負債を抱える可能性
- 業績を悪化させることができない
- 短いスパンでの転売
1.多くの負債を抱える可能性
LBO(レバレッジドバイアウト)は被買収会社多くの負債を抱える可能性があります。いくら買収時点で優良企業だったとしても、多くの負債が負担となって経営がひっ迫するケースも少なくありません。
特に、買収側が短期間で大きな利益を求める場合、そのリスクも高くなりがちです。一見すると被買収企業にとって良条件に見えるLBO(レバレッジドバイアウト)もありますが、実際にどれだけの負担が強いられるかをよく検証する必要があります。
2.業績を悪化させることができない
LBO(レバレッジドバイアウト)は基本的には短期間での債務返済を求められるため、業績が悪化した途端に債務の返済が滞るケースもあります。
被買収企業はギリギリの状態で債務返済を続けていくことがほとんどなので、1度業績が悪化し債務返済が滞ると、そのまま返済ができなくなることも少なくありません。
3.短いスパンでの転売
LBO(レバレッジドバイアウト)の買収側のなかには、短いスパンで被買収企業を転売し、短期間で大きな利益を得ることを目的としている場合があります。
買収側が中長期でのサポート戦略を考えているのか、あるいは短期間での投資回収を図っているのかによって、LBO(レバレッジドバイアウト)後の経営管理の方向性は大きく変わります。
短期と中長期どちらが成功するかは案件によりますが、特に短期間での転売の場合は注意が必要です。
M&Aにはほかにもさまざまな手法があり、それぞれにメリット・デメリットがあるので、M&Aを行う際は、自社の現状に合った手法を用いることが大切です。
M&A総合研究所ではM&Aアドバイザー・弁護士2名によるフルサポートを行っています。無料相談は随時受け付けておりますので、M&Aによる売却などでお悩みの際はお気軽にご相談ください。
6. まとめ
本記事では、LBO(レバレッジドバイアウト)を事例や図表付きで簡単に解説しました。LBO(レバレッジドバイアウト)の意味は、買収側が対象企業の信用力を利用して、銀行などから資金を借り入れて買収する手法を指します。
LBO(レバレッジドバイアウト)は成功すれば大きなメリットを得ることができますが、失敗した場合に被るリスクも非常に大きいため、実施前はよく検することが大切です。
- 資本がなくても買収ができる
- 調達資金を返済するリスクを抑える
【LBO(レバレッジドバイアウト)のデメリット】
- シナジー効果が予測より得られない可能性
- 金利コスト利子がついた負債が増加する
【LBO(レバレッジドバイアウト)の手順】
- SPC(特別目的会社)の立ち上げ
- 金融機関から資金調達
- SPCが対象企業を買収
- SPCと対象企業の合併
- 債務の返済
- 多くの負債を抱える可能性 がある
- 業績を悪化させることができない
- 短いスパンでの転売