2020年06月21日公開
2020年06月21日更新
アドバイザリー契約って?業務委託契約との違いや記載内容、相場を解説!
アドバイザリー契約とは、M&Aの専門家と結ぶ契約であり、専門家は契約内容に基づいてサポートを進めます。本記事では、アドバイザリー契約と業務委託契約との違いや、アドバイザリー契約の記載内容、専門家と契約した際の手数料の相場などについて解説します。
目次
1. アドバイザリー契約とは
アドバイザリー契約はM&Aの専門家にM&Aを依頼する際の重要な契約ですが、契約書には専門用語や独特な言い回しも多いため、理解するのが難しいといったケースも多くみられます。
しかし、アドバイザリー契約についてしっかりと理解しておくことは、後々のトラブルを防ぐためにも重要なので、わからない場合は専門家に説明してもらうなどして疑問点を解決しておく必要があります。
まずは、アドバイザリー契約とはどのようなものなのか、契約の目的や締結時期にについて解説します。
アドバイザリー契約の目的と締結時期
まずは、アドバイザリー契約の目的や、一般的な契約の締結時期について解説します。
アドバイザリー契約の目的
アドバイザリー契約は、専門家から助言を得たり手続きを代行してもらうことを正式に依頼する目的で結ぶびます。
M&Aの場合は、M&Aの専門家にサポートを依頼する際にアドバイザリー契約を結びます。M&A手続きは複雑で専門的なプロセスが多く、経営者自身が独力で実行するのは容易なことではありません。
M&Aについて豊富な知識と経験を有する専門家とアドバイザリー契約を結ぶことで、円滑でトラブルのないM&A手続きが可能となります。
買い手側のアドバイザリー契約の締結時期
買い手側は、M&Aの専門家が保有する売り手企業の概要を確認し、希望の売り手企業との交渉に進む時点でアドバイザリー契約を結ぶケースがほとんどです。
M&Aの専門家とアドバイザリー契約を結んだ後は、売り手側とトップ面談を実施します。条件面やトップ同士の相性・信頼性が確認できたら、基本合意書の締結へと進んでいきます。
売り手側のアドバイザリー契約の締結時期
売り手側は、M&Aの専門家に自社を売却案件として登録する際に、アドバイザリー契約を結ぶことがほとんどです。
アドバイザリー契約の際は、多くの場合において同時に秘密保持契約も結びます。その後、M&Aの専門家に会社の情報を提供し、企業価値評価や企業概要書の作成を依頼します。
2. アドバイザリー契約と業務委託契約との違い
アドバイザリー契約と混同されやすいもののひとつに、業務委託契約があります。ここでは、アドバイザリー契約と業務委託契約の違いを解説します。
業務委託契約とは
業務委託契約とは、特定の仕事を外部へ依頼する際に結ぶ契約です。業務委託契約は法律で定められた契約名ではなく、実際には請負契約と委任・準委任契約として法律で定められています。
請負契約とは、委託した仕事などが完成した場合に対価を渡す契約形式です。また、委任・準委任契約とは、契約期間の業務内容・結果によって対価を渡す契約形式のことです。
請負契約と委任・準委任契約の違いとしては、請負契約では契約書に印紙が必要ですが、委任・準委任契約では印紙は必要ないという点もあります。請負契約書に必要な印紙代は、契約金額に応じて変わります。
業務委託契約は、業務委託契約を企業と結ぶ場合は源泉徴収が発生しませんが、個人と業務委託契約を結ぶ場合は、源泉徴収が発生するケースと源泉徴収が発生しないケースがあります。
個人の場合源泉徴収が発生するかどうかは委託する業務内容によるので、源泉徴収が発生する業務かどうかの確認が必要です。
アドバイザリー契約と業務委託契約の主な違い
アドバイザリー契約は、業務委託契約委任・準委任契約に該当します。委任・準委任契約とは士業専門家やM&Aコンサルタントにサポートを依頼する際に結ぶ契約です。
つまり、アドバイザリー契約とは業務委託契約におけるひとつの契約形態ということになります。アドバイザリー契約は委任・準委任契約に該当するので、印紙は必要ありません。
また、アドバイザリー契約を結ぶ専門家が法人の場合は源泉徴収が発生しませんが、個人専門家とアドバイザリー契約を結ぶ場合は源泉徴収が発生する可能性があるので確認が必要です。
3. アドバイザリー契約と顧問契約との違い
業務委託契約のほかに顧問契約というものもあります。続いては、アドバイザリー契約と顧問契約の違いについて解説します。
顧問契約とは
顧問契約とは、特定の分野において専門的な知識・経験・能力を持った専門家からサポートを受ける際に結ぶ契約です。
一般的には、顧問契約というと弁護士や税理士など士業専門家との契約が想像されることでしょう。顧問契約はサポートの期間を明確に定めず、月ごとに固定報酬を支払うなどの形式で契約を結ぶケースが多くなっています。
なお、契約する専門家の業務内容によっては、印紙が必要になる場合と必要でない場合があるので注意が必要です。
弁護士が担う一般的な業務の多くは印紙が必要ありませんが、税理士が担う一般的な業務は印紙が必要となるケースがほとんどです。
ただし、M&Aのサポートを依頼する場合は業務の範囲が複雑になるので、とりあえず印紙を貼るのではなく、印紙は必要か・印紙代はいくらかかるか・印紙代は誰がいくら負担するのかなど、あらかじめ確認しておく必要があります。
また、業務委託契約の際の源泉徴収と同じく、顧問契約を企業と結ぶ場合は源泉徴収が発生しませんが、個人と顧問契約を結ぶ場合は源泉徴収が発生する場合があります。
個人の専門家と顧問契約を結ぶ場合は、源泉徴収の有無や源泉徴収の取り扱いなどについて確認が必要です。
アドバイザリー契約と顧問契約の主な違い
アドバイザリー契約と顧問契約の主な違いは、契約期間の有無です。アドバイザリー契約はM&A手続きが完了するまでなど、契約期間が定められていることがほとんどです。
そのため、買い手が売り手に対価を振り込んだ時点で成功報酬を支払うなど、一定の進度に応じて手数料を支払う形式が多くなります。
一方、顧問契約の場合は契約期間を定めないことがほとんどであるため、毎月顧問報酬を支払ったり、業務時間に応じて報酬を支払ったりする形式が多くみられます。
4. アドバイザリー契約とM&Aコンサルタントとの違い
M&Aを進めるにあたり、M&Aコンサルタントなど専門家のサポートを受けるケースが一般的です。この章では、アドバイザリー契約とM&Aコンサルタントの関係性について解説します。
M&Aコンサルタントとは
M&AコンサルタントはM&Aアドバイザーとも呼ばれ、M&Aに関する知見をもとに買い手や売り手のM&A・事業承継をサポートする専門家です。
M&Aコンサルタントは、戦略の構築やM&A相手の選定・交渉・契約など幅広い業務をカバーします。
特に、M&Aコンサルタントが一般的なコンサルタントやアドバイザーに求められる役割と違う点は、最適なM&A相手を選別して紹介することです。
M&Aは相手がいなければ始まらないため、M&Aコンサルタントがどのようなネットワークを持っているかは、M&Aコンサルタントを選ぶうえで重要な判断基準となります。
アドバイザリー契約とM&Aコンサルタントの主な違い
M&AコンサルタントとM&Aのサポートに関する契約を結ぶのがアドバイザリー契約です。
アドバイザリー契約を結ぶタイミングは依頼する専門家によって異なりますが、売り手側は一般的に売却案件として登録する際にアドバイザリー契約を結ぶケースがほとんどです。
また、買い手は売り手の企業概要書をみて、実際に交渉に進みたい場合に契約を結ぶケースが多くなっています。
アドバイザリー契約の内容によって、M&Aコンサルタントがカバーする業務範囲異なることもあるので、アドバイザリー契約書に記載されているサポート内容はよく確認する必要があります。
5. アドバイザリー契約の際の記載内容
ここでは、アドバイザリー契約書に記載される内容について解説します。アドバイザリー契約書には、主に以下の内容が記載されます。
【アドバイザリー契約書に記載される主な内容】
- 業務内容・業務範囲
- 着手金・月間報酬
- 費用負担
- 成果報酬
- 契約義務
- 資料提供
- 再委託事項
- 秘密保持
- 契約期間
- 契約解除
- 協議事項
①業務内容・業務範囲
アドバイザリー契約書には、M&Aコンサルタントの業務内容・業務範囲を記載することが一般的です。
しかし、業務範囲は多岐に渡るので、アドバイザリー契約書に記載されるのは大まかな業務内容であることがほとんどであり、詳細な業務内容・業務範囲の説明は別途行われることが多いです。
②着手金・中間報酬
着手金や中間報酬を設定しているM&Aコンサルタントの場合は、着手金や中間報酬の支払いについての記載があります。
支払いタイミングはM&Aコンサルタントによって異なりますが、着手金はアドバイザリー契約締結時点、中間報酬は基本合意書締結時点で支払う契約になることがほとんどです。着手金や中間報酬の相場は、事前に確認しておくとよいでしょう。
③費用負担
着手金や中間報酬といった手数料のほかにも、交通費など雑費の負担が発生することもあります。
着手金や中間報酬などの手数料に比べて見逃されがちですが、場合によっては負担が大きくなることもあるので、負担条件や相場などの事前確認が必要です。
④成果報酬
成果報酬は、レーマン方式を採用しているM&Aコンサルタントがほとんどです。レーマン方式は譲渡金額などによって手数料率が変わるので、アドバイザリー契約書に手数料率が記載されていることがあります。
金額が大きくなるため、着手金や中間報酬の相場同様、成果報酬の相場も事前に確認しておく必要があります。
⑤契約義務
契約義務とは、契約の内容に基づいて業務を忠実に遂行することを約束するものです。
アドバイザリー契約を結ぶことで、M&Aコンサルタントは契約に基づいて業務を遂行し契約に違反しないこと、依頼者はM&Aコンサルタントの業務遂行に協力し、契約に違反しないことなどを定めます。
⑥資料提供
M&A手続きを進めるにあたって企業情報の資料が必要な場合は、M&Aコンサルタントに対して資料を提供することを契約書に定めることがあります。
なお、依頼者が業務遂行に必要な資料を提出しない場合は、契約違反となり契約解除となる可能性があります。
⑦再委託事項
再委託事項とは、M&Aコンサルタントが業務をほかのM&Aコンサルタントに再委託しないよう定める契約です。
業務の再委託はトラブルの元になることがあるので、再委託事項が記載されていない場合は確認したほうがよいでしょう。
⑧秘密保持
秘密保持はM&Aにおいて非常に重要なので、アドバイザリー契約書には秘密保持について詳細に記載することが一般的です。
秘密保持の範囲や責任の所在、情報漏洩があった場合の賠償などについて明確にしておく必要があります。
⑨契約期間
アドバイザリー契約書には、M&Aコンサルタントとの契約期間も記載されていることがほとんどです。
また、契約期間内にM&Aの成立まで至らなかった場合に備えて、契約の延長についても記載されていることがあります。
⑩契約解除
契約期間とともに、M&Aコンサルタントとの契約を解除できる要件についても、記載されていることがほとんどです。
もし契約解除となった場合、手数料などの支払いがどうなるのかは契約前に確認しておく必要があります。
⑪協議事項
協議事項とは、契約内容にないトラブルなどが起きた場合に、依頼者とM&Aコンサルタントの話し合いによって解決することを定めた条項です。
M&Aは案件によってさまざまなトラブルなどが発生するので、アドバイザリー契約書の契約内容から判断しにくい問題が生じた場合に備えておく必要があります。
6. アドバイザリー契約の相場価格
アドバイザリー契約後に発生する主な料金には着手金・中間金・成果報酬があり、それぞれ相場価格も違います。
【着手金・中間金・成果報酬の相場価格】
- 着手金の相場価格:中小企業対象の場合は数十万円~
- 中間金の相場価格:成果報酬の1割から2割
- 成果報酬の相場価格:案件規模ごとに変動
成果報酬の計算に多く用いられているレーマン方式は、M&A価格の増加に伴ってマージンが下がっていく仕組みです。M&Aコンサルタントが採用しているマージンによって相場価格も変わります。
また、算定のベースとに総資産を用いているM&Aコンサルタントと、譲渡価額を用いているM&Aコンサルタントとでは相場価格が変わります。
【一般的なレーマン方式の算定表】
案件規模など | 手数料率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
7. アドバイザリー契約の形式に関するポイント
アドバイザリー契約には契約形式と交渉形式に種類があり、M&Aコンサルタントによって採用している形式は違います。ここでは、契約形式と交渉形式の違いを紹介します。
契約形式
アドバイザリー契約には専任契約と非専任契約があります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、何を重視するかによって選ぶわけなければなりません。
専任契約
専任契約とは、M&Aコンサルタントと独占的に契約を結ぶ契約方式であり、そのM&Aコンサルタントと契約を結んでいる間はほかのM&Aコンサルタントと契約することはできません。
専任契約のメリットは、依頼者のM&A成約に向けて全力でサポートしてもらえる点です。ただし、契約したM&Aコンサルタントとの相性が悪かったり能力が低かったりした場合、契約を解除してほかのM&Aコンサルタントを探す負担が大きい点がデメリットです。
非専任契約
非専任契約とは、同時に複数のM&Aコンサルタントと契約できる契約方式です。
M&Aコンサルタントと相性が悪かった場合、すぐほかのM&Aコンサルタントに切り替えられるメリットはありますが、丁寧なサポートが受けられないリスクは専任契約よりも高くなる場合があります。
交渉形式
M&Aコンサルタントの交渉形式には、アドバイザリー方式と仲介方式があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
アドバイザリー方式
アドバイザリー方式とは、売り手か買い手の片方とのみ契約を結んで交渉を支援する方式です。
契約側の利得を最優先に交渉してもらえますが、交渉が難航し長引きやすいという欠点も持っています。
そのため、アドバイザリー方式を採用しているM&Aコンサルタントを選ぶ際は、交渉力に長けていることが重要であり、誠実に自社の利得を優先してくれるかどうかも見極めなければなりません。
仲介方式
仲介方式とは、売り手と買い手両方とアドバイザリー契約を結び、両者の関係性を大事にした交渉支援を行う方式です。
アドバイザリー方式に比べてトップ同士の良好な関係が築きやすく、短期間で交渉がまとまりやすい反面、場合によっては交渉条件で妥協が必要になることもあります。
M&A総合研究所では、M&A専門の会計士や弁護士によるサポートとAI技術を活用した高精度のマッチングにより、短期間でのスピード成約と希望価格以上での会社売却を実現します。
M&Aコンサルタントとの契約でお悩みの際は、ぜひお気軽にM&A総合研究所の無料相談をご利用ください。
8. アドバイザリー契約・その他の契約を結ぶ時の注意点
アドバイザリー契約などM&A関連の契約を結ぶ際は、注意しなければならない点もあります。ここでは、特に注意すべき4点について解説します。
【アドバイザリー契約・その他の契約を結ぶ時の注意点
- 業務の範囲について
- 解約について
- 損害賠償責任について
- 知的財産権の扱いについて
①業務の範囲について
M&Aコンサルタントによってサポートする業務範囲は異なり、ほかのコンサルタントが行っていない付加価値のあるサービスを提供しているM&Aコンサルタント会社もあります。
M&Aコンサルタントを選ぶ際は、M&Aの目的を明確にしたうえで、目的に合ったサポートを受けられるコンサルタントと契約することが大切です。
②解約について
アドバイザリー契約を結ぶ際は、M&Aコンサルタントと相性が合わなかった場合やなかなか成約に結び付かない場合などに備えて、解約の条件もよく確認しておかなければなりません。
どのような場合に契約解除ができるのか、契約解除の際に違約金は発生するのかなど、契約前によく確認しておきましょう。
③損害賠償責任について
万が一トラブルが起きた場合に備えて、契約違反があった場合の損害賠償責任についても確認しておく必要があります。
どのようなトラブルが起きた場合に責任は誰に生じるのかなど、M&Aの際に起こりがちなトラブルのケースについてだけでも知っておくようにしましょう。
④知的財産権の扱いについて
知的財産権は権利関係が複雑に絡み合いやすく、流用が起きやすい性質があります。特に、近年は知的財産権の取り扱いについて、厳しい目が向けられるようになってきています。
M&Aの際に提供あるいは提供された特許情報や著作権情報のほか、人材・ノウハウ・顧客リスト案件情報などの取り扱いについては、入念な確認が必要です。
9. まとめ
本記事では、アドバイザリー契約について解説しました。アドバイザリー契約とは、専門家から助言をもらったり手続きを代行してもらったりする目的で結ぶ契約です。
【アドバイザリー契約】
- 業務委託契約のひとつ
- 契約期間が決まっていることが多い
【業務委託契約】
- 特定の業務を外部の請負会社や個人へ依頼する際に結ぶ契約
- 請負契約と委任契約・準委任契約に分けられる
【顧問契約】
- 特定分野において知識・経験・能力を持った専門家からサポートを受ける際に結ぶ契約
- 契約期間が決まっていないことが多い
【アドバイザリー契約に記載される主な内容】
- 業務内容・業務範囲
- 着手金・月間報酬
- 費用負担
- 成果報酬
- 契約義務
- 資料提供
- 再委託事項
- 秘密保持
- 契約期間
- 契約解除
- 協議事項
【アドバイザリー契約などM&A関連の契約を結ぶ際の注意点】
- 業務の範囲
- 解約の条件
- 損害賠償責任
- 知的財産権の扱い