2020年09月29日公開
2020年09月29日更新
のれん代とは?計算方法/償却期間/会計処理を解説【償却負担額ランキングあり】
のれん代とは、買収対象企業の時価純資産と実際のM&A価格の差額によって生まれる部分のことを指します。本記事では、のれん代とは何か、のれん代の計算方法や償却期間、会計処理などについて解説します。また、償却負担額の大きい企業をランキング形式で紹介します。
1. のれん代とは
のれん代とは、M&A価格に含まれる無形資産の部分を指し、企業の持つノウハウや技術、将来の収益性など、さまざまなものが該当します。
本記事では、のれん代の計算方法や償却方法などを解説しますが、まずはのれん代とはどのような意味なのかを説明します。
買収対象の純資産と実際の買収額の差額
のれん代とは、買収対象企業の時価純資産と実際のM&A価格の差額によって生まれる部分のことを指します。
M&A価格にはさまざまな無形資産が含まれていたり、買い手の期待値が含まれていたりするため、時価純資産よりも高くなることがほとんどです。
簡単にいうと、多くの場合において、M&A価格は対象企業の財産をすべて足しただけの価値よりも高くなるということになります。
ただし、場合によっては「負ののれん」が発生するケースもあります。負ののれんとは、対象企業の時価純資産よりもM&A価格のほうが安くなるケースのことです。
のれん代がいくらになるかは、企業価値評価や売り手と買い手の交渉内容などによって変わるため、仮に同じ会社がM&Aを行ったとしても、最終的な価格が同じになるとは限りません。
M&Aの際に得られるさまざまな財産
のれん代とは、対象企業が持つ無形資産を指します。のれん代にはさまざまな財産が加味されます。
【のれん代の例】
- 将来の収益力
- ブランド力・信用力
- 技術・ノウハウ・人材
- 市場シェア・地域のシェア
- 顧客・取引先
将来の収益力は、M&A時点での収益力を参考に、将来のリスクを割り引いて計算するのが一般的です。
何年分の収益を加味するかは案件によって違いますが、3年から5年程度を加味するケースが多くみられます。しかし、買い手企業が売り手業を高く評価すれば、5年よりも長い期間を加味することもあります。
また、ブランド力・信用力、技術・ノウハウ・人材といった数字には表しにくい要素をどのようにのれん代に反映させるかということも、M&A価格を決めるうえで重要なポイントになります。
2. のれん代の計算方法
M&A価格を決める際には、多くのケースで「M&A価格=時価純資産+のれん代」という計算式を用います。したがって、のれん代は「のれん代=M&A価格ー時価純資産」で算出することができます。
例えば、時価純資産が8,000万円の会社をM&A価格1億円で買った場合、のれん代=1億円ー8000万円となり、2000万円がのれん代となります。
のれん代を求めるためには、まず的確な企業価値評価が必要です。企業価値評価にはコストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチといったアプローチ方法があり、それぞれに長所と短所があります。
コストアプローチとは純資産に注目して計算する方法であり、マーケットアプローチとは他社に注目して計算する方法です。また、インカムアプローチとは、収益力に注目して計算する方法を指します。
本格的な企業価値評価を的確に行うには、専門家による算定が必要です。M&Aに精通している会計士・税理士に相談することが大切です。
3. のれん代の償却期間と方法
のれん代の償却期間や償却方法は、日本の会計基準や国際財務報告基準で定められています。本章では、のれん代の償却期間と方法について解説します。
のれん代の償却期間
のれん代の償却は、20年間を限度にその会社が定めた期間内で償却していくことになります。のれん代の償却期間を何年間に設定するかは、買い手企業が買収額を何年で回収できるかを算出したうえで決めます。
例えば、買い手企業が1億5000万円で年間収益1500万円の売り手企業の買収を行い、そのうち2000万円がのれん代だった場合を想定します。
買収額1億5,000万円を年間収益1500万円で投資回収していくということは、10年で買収額が回収できることになります。
買収額のうち、のれん代が2000万円ということは、2000万円ののれん代を10年で償却していくので、毎年200万円を特別損失として計上する計算になります。
なお、このようなのれん代の減価償却は日本の会計基準の場合であり、国際財務報告基準ではのれんの減価償却を行うことはありません。ただし、今後は国際財務報告基準でものれん代の償却が義務付けられる可能性があります。
のれん代の償却方法
日本の会計基準の場合、定期償却によって毎年負担を負わなければなりませんが、国際財務報告基準では現状定期償却を行うことはありません。
しかし、国際財務報告基準の場合、のれん代がその会社の収益に貢献していないと判断されれば、減損処理を行う必要があります。
のれん代の負担額が大きということは、減損処理が発生した場合にその会社は大きなダメージを負うことになります。
そのため、買い手企業は買収の際に適切なのれん代を算出できるか、買収後適切に買収した企業の経営管理をできるということは重要なポイントとなります。
4. のれん代の会計処理
前述のように、多くの場合、M&A価格は時価純資産よりも高くなるので、のれん代は貸方の固定資産に計上し、20年以内の期間で減価償却していきます。
しかし、なかにはM&A価格が時価純資産よりも安くなるケースもあります。その場合「負ののれん」が発生し、すべて利益処理が必要です。
負ののれんは、会計上特殊な状態であると認識されます。特殊な状態であるということは、つまり通常ではあり得ない状態であるということです。
しかし、実際には売り手と買い手は完全に合理的な判断で売買を行えることは多くありません。さまざまな思惑やこだわり、思い入れなどが複雑に絡み合ってM&A価格は決定されていきます。そのため、会計上は特殊な状況である負ののれんが発生するケースもあります。
5. のれん代の償却負担額ランキング
本章では、のれん代の償却負担額が大きい企業をランキング形式で紹介します。
【のれん代の償却負担額ランキング】
- ソフトバンクグループ
- 電通
- JT
- アサヒグループHD
- 楽天
1.ソフトバンクグループ
のれん代の償却負担額1位は、ソフトバンクグループです。ソフトバンクグループは、自己資本に対するのれん代の比率が8割を超え、のれん代は4兆円を超えるという圧倒的な負担を背負っています。
のれん代が4兆円を超えているということは、20年かけて減価償却しても2000億円ずつの償却が必要です。
ソフトバンクグループは、これまでいくつもの巨額買収を実行してきています。のれん代が高い企業を買収するということは、それだけ将来性のある企業を買収しているとみることもできます。
しかし、業績が順調に伸びなかった場合は逆に大きな損失を被ることになります。実際に、ソフトバンクグループはこれまで何度が巨額の損失を出し、買収した企業を売却しています。
2.電通
のれん代の償却負担額2位は、電通です。電通ののれん代は約8000億円と、ソフトバンクグループに比べると金額自体は小さくみえます。
しかし、自己資本に対するのれん代の比率は7割を超えており、決して負担が軽いということはありません。
電通はグローバル企業として、海外企業の買収を積極的に行っています。海外企業の買収は買収額が割高になることがあったり、買収後の経営管理が難しかったりするという課題を抱えることがあります。
そのため、買収後の経営管理に成功すればグローバル企業として飛躍できる一方、経営管理に失敗すると大きな打撃を受ける可能性もあります。
3.JT
のれん代の償却負担額3位は、JTです。JTののれん代は2兆円近く、自己資本に対するのれん代の比率も7割近くと、どちらも高めの数字となっています。
JTはタバコの日本国内市場が縮小していくなかで、早い段階から海外の大手タバコ会社を買収し、高い事業シナジーを獲得しながら成長を遂げてきました。
JTの海外M&A戦略は、日本企業の模範的な海外戦略事例として各業界から注目されています。
のれん代の負担は大きいですが、のれん代の負担に経営が圧迫されている企業とは違い、順調に成長を続けています。
4.アサヒグループHD
のれん代の償却負担額4位は、アサヒグループHDです。アサヒグループHDののれん代は約7000億円、自己資本に対するのれん代の比率は約65%となっています。
アサヒグループHDは、海外で大型買収を相次いで行い、グローバル企業化を推し進めてきました。2019年には、オーストラリアの大手ビール会社であるカールトン&ユナイテッドブリュワリーズを、1兆2000億円で買収しています。
縮小傾向にある国内ビール市場のなかで、アサヒグループHDはリスクを抱えてでも海外展開を積極的に進めています。
5.楽天
のれん代の償却負担額5位は、楽天です。楽天ののれん代は約3000億円と、上記の4社に比べるとのれん代の負担は少ないですが、自己資本に対するのれん代の比率は50%を超えており、決して負担が少ないとはいえない状況です。
1999年に楽天へと称号を変更して以降、国内企業を中心にさまざまな業種の企業を相次いで買収し、M&Aとともに急成長を遂げてきました。近年は海外企業への買収も徐々に増やし、買収規模も大きくなってきています。
6. のれん代を計上する際に注意するべきこと
のれん代を計上する際は、どのような点に注意しておけばよいのでしょうか。ここでは、特に重要なポイントを4つ紹介します。
【のれん代を計上する際に注意するべきこと】
- のれん代は経済合理性だけで決まることはない
- 的確に企業価値評価を行う
- 立て直しに失敗すると大きな負債を抱えることはある
- 専門家に相談する
1.のれん代は経済合理性だけで決まるとは限らない
ここまで述べたように、のれん代とは無形資産であるため、数字には簡単に表せない要素も含まれていることが多くあります。
また、M&A価格は売り手と買い手のさまざまな思惑が入り混じった交渉によって決まるため、最終的に計上されるのれん代は必ずしも客観的に合理的な数字であるとは限りません。
しかし、のれん代の見積もりを誤ると、買収後想定外の負担を強いられることになりかねません。M&Aの際はのれん代を本当に回収できそうか、綿密に検証する必要があります。
2.的確に企業価値評価を行う
M&A価格を決めるには、まず的確な企業価値評価を行う必要があります。企業価値評価を参考にM&A価格の交渉も進んでいくということは、のれん代の決定にも影響が及びます。
つまり、的確に企業価値評価を行うことが適切なのれん代の算出にもつながるため、企業価値評価は専門家によって的確に行うことが大切です。
3.立て直しに失敗すると大きな負債を抱えることはある
のれん代は、買い手企業による買収先企業の評価額であるともいえます。買収先企業が買い手企業による評価よりも業績が振るわなかった場合、買い手企業は収益につながらなかったのれん代が損失になることがあります。
のれん代の減価償却期間が長いほど、将来の収益力がどうなるか予測することは難しくなります。どのようにして、先々のリスクをなるべく的確にのれん代に織り込むかが重要になってきます。
4.専門家に相談する
のれん代は抽象的な要素が多いので、的確に見積もることは簡単ではありません。そのため、的確なM&A価格の算出にはM&Aの専門家によるサポートが必要不可欠です。
M&A総合研究所では、支援実績豊富なM&Aの専門家が譲渡金額や譲渡可能性などを丁寧にご説明いたします。
また、M&Aのサポートを行う場合は、着手金・中間金の発生しない完全成功報酬制となっているので、M&Aが成立するまで手数料は発生いたしません。
ご相談は無料で承っておりますので、M&Aに関してお悩みの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
7. まとめ
本記事では、のれん代の意味や計算方法、償却方法などについて解説しました。のれん代とは、買収対象企業の時価純資産と実際のM&A価格の差額によって生まれる部分のことを指します。
のれん代となる無形資産は抽象的なものが多く、まずは企業価値評価を正しく行う必要があるため、適切に見積もるためにも専門家に依頼するようにしましょう。
【のれん代に含まれる要素】
- 将来の収益力
- ブランド力・信用力
- 技術・ノウハウ・人材
- 市場シェア・地域のシェア
- 顧客・取引先
【のれん代の償却負担が大きい企業上位5社】
- ソフトバンクグループ
- 電通
- JT
- アサヒグループHD
- 楽天
- のれん代は経済合理性だけで決まることはない
- 的確に企業価値評価を行う
- 立て直しに失敗すると大きな負債を抱えることはある
- 専門家に相談する